montana_sf16’s diary

気まぐれではありますが「過去記事」を少しずつ掲載していきたいと思います。※アルバム紹介について。⇒ バンド名~アルバムタイトル~(掲載年月) ←この順番になっています。何かご覧になりたいもの等ございましたら受け付けますのでどうぞよろしくお願いいたします。🙇‍♂️

ヘンリー・マンシーニ ピンクの豹 (2019-3)

f:id:montana_sf16:20240416121514j:image f:id:montana_sf16:20240416122038j:image💿️Henry Mancini – The Pink Panther (1963) – Soundtrack - YouTube

抜き足差し足で忍び寄る場面のBGMとして、最も使用頻度が高いと思われるのが、ヘンリー・マンシーニの「ピンク・パンサーのテーマ」です。1963年に誕生してから半世紀以上たった今でもその鮮度は失われていません。これはホント恐ろしいことです。「ピンク・パンサー」、邦題「ピンクの豹」は1963年に制作された映画です。監督はブレイク・エドワーズです。エドワーズは1961年にオードリー・ヘップバーンの「ティファニーで朝食」、翌年に「酒とバラの日々」を監督して、一躍有名になっていました。ピンク・パンサーは物語の中心となる大きなダイヤモンドの名前です。このダイヤモンドの中にピンクの豹が浮かび上がることから付けられました。このピンクの豹は今に至るも人気の高いアニメーションとして効果的に描かれました。映画自体はダイヤモンドを巡るロマンありサスペンスありのコメディ映画で、主役はデヴィッド・ニーヴンクラウディア・カルディナーレです。クラウディアは当時、ブリジット・バルドーのBBに対してCCと呼ばれていたセクシーな美人女優さんでした。しかし、狂言回し的な役割で描かれたピーター・セラーズ演じるクルーゾー警部が主役も霞むほどの大好評をもって迎えられました。その結果、スピンオフ作品として「暗闇にドッキリ」が制作されますし、後に続々と後継作品が登場することになります。本作品のサウンドトラックはヘンリー・マンシーニが担当しました。マンシーニエドワーズの「ティファニーで朝食を」や「酒とバラの日々」も担当しており、どちらの作品においてもアカデミー賞の歌曲賞を受賞しています。二人の相性はばっちりです。

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f:id:montana_sf16:20240416195631j:image f:id:montana_sf16:20220908065350j:image🎦Henry Mancini 映画 「ピンクの豹」 Theme From The Pink Panther - YouTube

マンシーニサウンドトラック・アルバムを作る際には、フィルム用の録音とは別にサントラ用にアレンジを施して、音楽アルバムとしてもしっかりとまとまりのあるものにするという実に丁寧な仕事をしています。映画に依拠せず、音楽だけでしっかりと立つ。「ピンクの豹」も例外ではなく、冒頭の「ピンク・パンサーのテーマ」から最後のラグタイム風の「シェイズ・オブ・セネット」に至るまで、隙のないまとまりのある作品となっています。全部で12曲、ラウンジという言葉が似合うゴージャスなサウンドが繰り広げられます。もちろん最も有名なのは「ピンク・パンサーのテーマ」で、マジカルなサックスの音色が映える永遠の名曲です。この曲を皮切りに、映画の基本トーンを表す「今宵を楽しく」、トランペットが切ない夜更けのジャズ「ロイヤル・ブルー」などなど、聴きどころが続きます。お洒落に埋め込まれたサンバやマンボなどのラテン・フレイバーが強く、管楽器が歌う夢のような時間が過ぎていきます。サントラを聴いている限り、美男美女が入り乱れるお洒落なシーンばかりが思い出され、クルーゾー警部の出番がありません。それで結構です。この作品にはヘンリー・マンシーニの極上のラウンジ・ミュージックが詰めこまれています。ほのかなラテン・フレイバーで管楽器や弦楽器が歌いあげる音楽はマンシーニの真骨頂をこれでもかと見せつけてくれます。カクテルの似合う音楽です。

The Pink Panther / Henry Mancini (1963 RCA)

ヘンリー・マンシーニ 酒とバラの日々(2011―4)

f:id:montana_sf16:20240416191908j:image f:id:montana_sf16:20240416191916j:imagehenry mancini the days of wine and roses 曲 - Google 検索

🎦Henry Mancini "Days of Wine and Roses" (Official Visualizer) - YouTube

💿️Days Of Wine And Roses | Soundtrack Suite (Henry Mancini) - YouTube

私たちが子どもの頃、「子象の行進」は運動会の大定番曲でした。この曲を始め、ヘンリー・マンシーニの音楽はさまざまな場面で流れていました。きっと、私たちの音楽脳の結構大きな部分をヘンリー・マンシーニが占めていることでしょう。ヘンリー・マンシーニはテレビ・シリーズ「ピーター・ガン」の音楽を担当して、1959年にいきなり全米1位を獲得します。テレビ番組の音楽がレコードとして発売されるのも当時は異例だったそうですけども、これが見事にあたりました。職がなくて途方に暮れていた時に、床屋を出たところでブレーク・エドワーズ監督と出会って、この仕事をもらったのだそうです。床屋さんに行かなければこの成功はなかったというエピソードは有名です。そして、1961年にはオードリー・ヘップバーンの「ティファニーで朝食を」がまたまた大ヒット、中でも「ムーン・リバー」は不朽の名作としてスタンダード化しています。その後、「シャレード」「ひまわり」そして「ピンク・パンサー」とヒットが続きます。マンシーニは、映画やテレビの音楽を担当するばかりではなく、アレンジャーとしても才能を発揮し、自らオーケストラを率いて活躍します。ニーノ・ロータの「ロミオとジュリエット」やフランシス・レイの「ある愛の詩」のアレンジは有名です。特に前者はグラミー賞を獲得しています。

🎦Henry Mancini - Days Of Wine And Roses (Best Of Both Worlds, October 4th 1964) - YouTube

🎦Julie Andrews & Henry Mancini - The Days Of Wine And Roses - YouTube

彼は、とても優れた人柄だったようで、怒った顔を見たことがないと言われますし、醜聞も聞きません。オーケストラがポピュラー音楽をやるのはあまり楽しくないそうですが、ヘンリーとの仕事だけは例外でした。全ての楽団員を敬意を持って扱うからだということです。そんな彼の紡ぎだす音楽はとにかく美しいです。しかし、逆に彼が作り出す音楽を「美しい」とするのだという刷り込みを幼少の頃から受けてしまっているのではないかしらと不安にもなってきます。ま、スタンダードとはそういうものでしょう。とはいえ、まあそう深刻にならずに聴いてみると、ハイセンスなジャズや、ボサノヴァ、サンバ、ワルツにマーチと多彩な曲調ですし、管楽器やシンセサイザーの使い方にもセンスの良さがにじみ出ていて感動すらしてしまいます。特に彼のフルートやピッコロの使い方は革命的だったようです。稀代のメロディー・メーカーの上に、そうした器楽のセンス。さらにさらに、人柄の良さがサウンドににじみ出ていますし、決してやっつけにならない丁寧な仕事も素敵です。名曲があまたある中で、自分が一番好きなのは何と言っても「ピンク・パンサー」です。映画そのものも繰り返し見ているので贔屓目なのかもしれませんが、プラス・ジョンソンのテナー・サックスの素晴らしさには声も出ません。同じブレイク・エドワーズピーター・セラーズヘンリー・マンシーニのトリオ作「パーティー」も傑作でした。ピーター・セラーズのあまりに素晴らしいインド人英語には在日パキスタン大使も太鼓判を押されていました。サイケなマンシーニも素敵です。

The Days Of Wine And Roses / Henry Mancini (1995 RCA)

ザ・ローリング・ストーンズ (2016-11)

f:id:montana_sf16:20230416104742j:image f:id:montana_sf16:20220415054412j:image💿️ROLLING STONES 1ST ALBUM (1964) - YouTube

🎦ローリングストーンズ・テルミー - YouTube

ローリング・ストーンズのデビュー・アルバムです。英国盤は長らく入手が困難でしたけども、こうしてボックス・セットの一つとして入手することができました。ビートルズと異なり、ストーンズの初期作品群は扱いが悪かったのでボックス・セットは大変嬉しいです。ジャケットはストーンズの5人のポートレート写真のみ。タイトルもバンド名も一切ありません。マネージャーのアンドリュー・オールダムのこだわりで、レコード会社デッカの反対を蹴散らして実現させたものです。オールダムのもう一つのこだわりは、デッカの役割を販売に限定し、制作過程に一切口を出させなかったことです。実はこれって途轍もなく大きなことなんです。ビートルズですら、デビュー時にそんな自由を手にしてはいませんでした。それは反面ではスタジオも自分たちで探すということで、彼らが選んだのはリージェント・サウンド・スタジオというまるで貧弱なスタジオでした。とはいえ、それがまたこのアルバムの味わいを深めていますから面白いものです。荒々しい音がぴったりなんです。そのスタジオにやってきたストーンズは何の準備もしていなかったそうです。「日頃ライヴで演奏している曲を中心にレコーディングすればいいと考えていた」模様で、必然的にジャム・セッション的に録音が進んでいくことになりました。収録されている12曲のうち、オリジナルは2曲ですが、そのうち一曲は実質「キャン・アイ・ゲット・ア・ウィットネス」のインストゥルメンタルですから、普通の意味でのオリジナルは「テル・ミー」のみです。ミック・ジャガーキース・リチャーズオールダムに缶詰にされて書かされたという「テル・ミー」は、ローリング・ストーンズの曲の中でも最も日本のグループ・サウンズ的です。この曲を聴くたびにタイガースやテンプターズを思い出してしまいます。ブルースやロックン・ロールのカバーが並ぶ中で、ポップな味わいをもつ「テル・ミー」は異彩を放ちながらも、アルバムに画竜点睛効果を与えています。全部カバーでもよかったとは思いますが、この曲のおかげで未来への予感を胚胎することになりました。

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 f:id:montana_sf16:20220415061317j:image🎦Rolling Stones - Route 66 1976 - YouTube

それにしてもここでのストーンズの演奏は気持ちが良いです。嬉々としてアメリカの黒人音楽を演奏する彼らの溌剌とした姿は何物にも代えがたい初心の魅力を放っています。この前にシングルがあるわけですが、やはり長尺が欲しいですから。面白いのはコーラスをしているのが、キース・リチャーズではなく、ブライアン・ジョーンズビル・ワイマンだということです。最初はそういう建付けだったのかと少し意外でした。特にブライアンのダミ声全開の「ウォーキング・ザ・ドッグ」は聴き物です。この作品は全英1位に輝きました。米国でヒットしていたにしても英国では無名な曲ばかりですから、それまで聴いた事がない何やらどす黒い怪しげなサウンドは英国の若者にはさぞかし新鮮に響いたことでしょう。そう、これはまるでパンクでした。

The Rolling Stones / The Rolling Stones (1964 Decca)

 参照:「ローリング・ストーンズを聴け」  中山康樹 

ローリング・ストーンズ アフターマス (US) (2016―12)

f:id:montana_sf16:20240415214530j:image💿️Aftermath- Rolling Stones - YouTube

ローリング・ストーンズ初の全曲オリジナルで固めたアルバムの米国盤です。もっさりしたジャケットがイギリス的ではなくて、何ともアメリカ的な雰囲気をかもし出しています。モノクロに耐えられない感性というのがあるものです。英国盤と比べると、まず、冒頭の「マザーズ・リトル・ヘルパー」が「黒くぬれ!」に差し替えられています。「黒くぬれ!」は英米でチャートを制した人気曲ですから、これまでの米国盤の編集方針に合致した差し替えです。今回は英国盤が50分を超える長尺だったことから、米国盤では3曲がカットされました。よりコンパクトにまとめることで、商業性を高めようとする意図だと思います。結果的にこの戦略は功を奏したのではないでしょうか。米国盤の人気は結構高いです。「黒くぬれ!」はブライアン・ジョーンズシタールが大活躍する凄味のある名曲です。それに改めて聴いてみると、ビル・ワイマンのぶいっぶいっとなるぶっといベースが素晴らしいです。この曲の凄味はこの二人が醸し出しています。この曲が冒頭に置かれることで、英国盤とはまるで異なるアルバムのような印象を受けるのが面白いです。後は間引かれているとは言え、同じ曲ばかりなのに。これは英国盤の「マザーズ・リトル・ヘルパー」がこれまた強力だったからでしょう。同じく凄味はあるものの、その凄味の方向性がまるで異なっています。「黒くぬれ!」の方が明らかに派手な曲ですから、当時、ストーンズと言えば、日本ではまず「黒くぬれ!」でした。

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f:id:montana_sf16:20240415221535j:image🎦The Rolling Stones - Paint It, Black (Official Lyric Video) - YouTube

🎦Rolling Stones Paint It Black HD - YouTube

「サティスファクション」や「ひとりぼっちの世界」よりもこっち。後に「悲しみのアンジー」がやたらと日本で受けたのと同じようなものを感じます。どこか歌謡曲的な風景を感じさせますから、グループサウンズの方々にも馴染みの深い楽曲でした。日本人好みのヒット曲です。面白いことに「アウト・オブ・アワ・ヘッズ」米国盤で感じた「サティスファクション」の孤独感はこちらにはありません。「黒くぬれ!」は見事にアルバムに溶け込んでいます。恐らくそのせいもあって、米国盤に軍配を上げる人が多いのでしょう。これはすべてオリジナル楽曲であることに起因しているのでしょう。まだアルバムとしての統一感を頭に置いて楽曲を作るという余裕はなかったと思われます。したがって、同じセッションでも一曲一曲が独立した印象があります。カバーを交えたアルバム・セッションでは一気に同じ勢いで各楽曲が録音され、統一感がありました。それに対して、こちらは各楽曲のベクトルがまちまちです。それだから、一曲差し替えられてもアルバムのまとまりとしては問題ない。そんなこんなでストーンズのオリジナル指向がここで決定的になり、すぐにやってくる黄金期への期待が膨らみます。どす黒い雰囲気を残しつつ、カラフルな音作りとなったこのアルバムは、初期ストーンズの終わりの始まりとなりました。

Aftermath (US) / The Rolling Stones (1966 London)

ローリング・ストーンズ アフターマス (2011―7)

f:id:montana_sf16:20240415214515j:image💿️FULL ALBUM - AFTERMATH (The Rolling Stones) (1966) (UK) - YouTube

ローリング・ストーンズの英国での4作目は、すべてをオリジナルの楽曲で埋めた初めてのアルバムです。それまでのカバー楽曲中心から大きな転換となりましたし、サウンドも同じく変化してきました。比べるのもなんですが、ちょうどこの作品はビートルズで言えば、「ラバー・ソウル」と「リヴォルバー」との間に位置します。ビートルズもこの二枚のアルバムで大きな変化を遂げているわけですから、お互いに意識しあっていたんでしょう。中山康樹さんは、「本作1曲目の『マザーズ・リトル・ヘルパー』は、過去のいかなるスタイルや音楽性に属することなく、この時点でストーンズが獲得した新たな世界を実感させる」と書いています。同感です。もちろんこのアルバムには彼らの代表曲となる「アンダー・マイ・サム」が入っているのですが、自分はストーンズと言えば断然「マザーズ・リトル・ヘルパー」です。このギターのリフといい、最後の合いの手で終わる終わり方といい、ストーンズの凄味が凝縮されています。曲がさほど洗練されていないことが余計に初期ストーンズの魅力を放っています。代表曲とは到底言えないでしょうが、鮮烈なストーンズ体験をもたらすという意味ではとても重要な楽曲だと思っています。ハリウッドのRCAスタジオでの二回のわたるセッションで全曲が録音されています。しかし、これまでのカバー中心時代に比べると、それこそ曲調もバラバラですし、サウンドも格段にバラエティーに富んでいます。キース・リチャーズは、「ソングライティング、録音、パフォーマンス、すべてが新しいレヴェルに踏み込んだ時期だった」と述懐しています。~続⤵️

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f:id:montana_sf16:20240415215639j:image🎦The Rolling Stones - Mother's Little Helper (Lyric Video) - YouTube

🎦Rolling Stones - Under My Thumb video - YouTube

🎦ROLLING STONES MOTHER S LITTLE HELPER - YouTube

そして、「これはブライアンが脱線し始めた時期とも重なっている」とも語っており、ブライアンの役割を感じさせます。キースは、ブライアンを「まわりに転がっている楽器をつかんで、とてつもない音を生み出す」とほめていますし、ミック・ジャガーも「ブライアンは曲に色付けをする役割を楽しんでいたし、確かに効果的だったよ」とその貢献を認めています。このアルバムではブライアン・ジョーンズシタールマリンバダルシマーハープシコードなどが大活躍しており、薄らと漂うサイケデリック臭はブライアンから発せられていることが分かります。比較的ポップな曲を一ひねりして凄味を加える役割だと言えます。さらに11分を超える異例の長尺曲「ゴーイン・ホーム」にもブライアンの姿を感じます。ずるずるとした演奏が何とも言えず耳に残ります。自分はこのアルバムと言えば、この曲を真っ先に思い出してしまいます。ブライアン・ジョーンズの貢献は大ですが、何となく居心地が悪そうな気もします。これまでのカバー中心のアルバムに比べると、各楽曲の強度は強いのですが、どこかとっちらかった印象が強い面白いアルバムだと思います。

Aftermath / The Rolling Stones (1966 Decca)

参照」「ローリング・ストーンズを聴け」中山康樹

レディオヘッド キッドA (2016―10)

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 f:id:montana_sf16:20240415195637j:image💿️Radiohead - Kid A (Full Album) - YouTube

この作品には驚きました。なんたって全米1位を獲得したんです。1970年代、80年代に米国チャートと親しくお付き合いした身としては、全く理解しがたい現象でした。こういう音楽はむしろ米国人には理解できないということが勲章のようになっていたはずです。時代は変われば変わるものです。こんなアルバムが1位になるなんて。もっともチャートに長居はしておらず、同じレディオヘッドのアルバムでも前作の方が累計では売れているようですから、少しほっとしました。前作まではとにもかくにもギター・バンドとしての顔を保っていたレディオヘッドですが、この作品では電子音とエフェクト効果を効かした楽器音の断片が基本トーンとなっています。アンビエントっぽい。見かけのスタイルは大きく変わりました。「ロックなんか退屈だ」とリーダーのトム・ヨークは語ります。「ロック以降」を宣言したと山崎洋一郎氏がライナーに書いています。ただ、そういった一切合財がニュー・ウェーブからスミスに至るブリティッシュ・ロックの王道を宣言しているように思います。逆説を弄しているわけではありません。王道を行く人々の多くはロックを否定してみせますが、ともかくロックを語ってしまっている。見かけのスタイルはどうあれ、ロックがその奥に見え隠れしています。ある意味でとても真面目なロック・アルバムです。トム・ヨークは愛読書にベン・オクリの「満たされぬ道」を挙げています。~続⤵️

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f:id:montana_sf16:20240415201020j:image🎦KID A KID A KID A (RADIOHEAD) Kid A Live in Belfort, 2003. Radiohead. - YouTube

オクリはナイジェリア人、ロンドンでホームレスを経験しています。そんな彼の「満たされぬ道」ほどアフリカのジャングルの心臓に迫った作品はありません。自分はこの作品をひと夏かけて読みました。美しい文体に魅了され、読み終わるのが惜しかった。オクリの描く魔術的リアリズムは、ガルシア・マルケスなどの南米派とは全く異なる、とても濃密でねばねばした作品です。いかにも「キッドA」的な世界です。「僕は、このアルバムにはまるっきり感情的なところが無いと思うんだ」とトムは語っていますが、一方でアルバムには「夕暮れには切なすぎる涙を誘いだしているの?」と問いかける椎名林檎の言葉が封入されています。どちらも正解なんでしょう。スタンレーによるアルバムのアートワークは白を基調とした寒々としたもので、荒涼とした心象風景を写しているようにも見えますけども、濃密な空間の魔術的な世界のようにも思えます。エモーションが溶け合ってべとべとしています。アルバムの制作過程はリアルタイムでギターのエド・オブライエンがブログに書いています。まるでゴールの見えない毎日だったようで、最終的に完成した時にはファンはほっとしたのではないでしょうか。オウテカなどのエレクトロニカ系のサウンドに触発されてのこのサウンドですけれども、それでも、もうひとつのロックの極北にあるU2レディオヘッドには共通する匂いを感じます。21世紀のロックの可能性を感じるアルバムです。

Kid A / Radiohead (2000 Parlophone)

村治佳織 エスプレッシーヴォ (2018―9)

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f:id:montana_sf16:20240415084204j:image💿️カプリス OP.1-24(パガニーニ~福田進一 編) - YouTube

💿️愛の歌(メルツ) - YouTube

💿️3つのカプリス~36のカプリス... - YouTube

「わたしたちはいま、美しい宝石を得た」と、村治佳織のデビュー・アルバムに賛辞を贈っているのは作家の井上ひさしです。井上は、佳織さんが生まれ育った柳橋を引き合いに出して、「彼女の粋な美しさ」を特筆し、その音は「江戸前で歯切れがいい」と称賛します。さすがは大作家です。この描写は見事です。彼女のギターには確かに江戸前の香りが漂っています。粋という言葉がぴったりです。クラシック・ギターですから、江戸前ギターと言われると抵抗があるかもしれませんが、これをキャッチフレーズにして欲しかった。この作品は村治佳織15歳のデビュー・アルバムです。前年には東京国際ギター・コンクールにて史上最年少優勝を果たしており、歳は若いものの、待望のCDデビューでした。同年にはデビュー・リサイタルも開催されています。どれだけクラシック・ギター界の期待の星であったことか。この作品の充実ぶりを見れば分かります。ブックレットも丁寧です。まずは著名なギタリストであるデビッド・ラッセルの言葉。「これほどすぐれた音楽的能力を身につけた若いギタリストに、かつて会ったためしがない」。井上ひさしの献辞、濱田慈郎による村治佳織の紹介と各楽曲の詳細な紹介。英語でさらりと書いてあるので見過ごしそうになりますが、佳織さんの師匠福田進一によるプログラム・ノート。娘を慈しむかのようなスタッフの仕事ぶりです。難点は写真です。~続⤵️

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実は、業務上のことではございましたが、一度だけ面識があります。佳織さんは本当に凡百のアイドルをしのぐルックスでした。恐らくはそこを強調してはいけないと思うあまりのことでしょう、この写真はないわぁ。ドレスもねぇ。┐(´~`;)┌💨、、気持はわかります。ともすればそちらにばかり話題が集まるので、クラシック界としてはそれは避けたいのでしょう。ことさらにアイドル風に撮る必要はありませんが、年相応の自然体の写真で良かったのに。これでは逆にクラシック界の権威が揶揄される。選曲は19世紀前半のギター音楽の古典作品が中心です。ただし最初の曲は、バイオリンの鬼才パガニーニ無伴奏バイオリンのための「カプリス集」からの一曲で福田進一がギター用に編曲しています。パガニーニはギターの名手でもあったそうです。ジュリアーニの「私の愛する花」からの曲、ジャスミン、ロスマリン、バラを分散して配置していること、レニャーニの「3つのカプリス」を3曲ずつのまとまりに分けていることなどに選曲のこだわりが感じられます。とても丁寧に流れるように聴くことができます。ソルやコスト、メルツといったギターを代表する作曲家の曲を配置しつつ、超有名曲はあえて入れないプロフェッショナルな仕様です。福田進一始め、スタッフ一丸となって盛り立てる様が素晴らしい。そこに主役の佳織さんはまだ中学生にして堂々としたものです。パガニーニの曲は音楽関係者の度肝を抜いたそうです。超絶技巧で一発かまして、古典も浪漫も小粋に弾きこなすという早熟さ。かといって老成しているわけではなく、江戸前のちゃきちゃき娘のたたずまいも残っているところが魅力です。

🎦Espressivo / Kaori Muraji (1993 ビクター)

村治 佳織 トップランナー - YouTube

シン・リジィ ブラック・ローズ (2011―12)

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アイルランドの英雄」と呼ばれるシン・リジィを前に、こんなことを言うのも何ですが、この人たちもどこかチンピラ感の漂う人たちです。ま、そんなところがとても愛おしいと思ってます。シン・リジィアイルランドのバンドです。アイルランド最大のバンドは「U2」でしょうが、そういう一般的な物言いには、必ず反抗する人が出てきます。そんな彼らが真っ先に挙げるのはこのシン・リジィです。カッコいいですからね。シン・リジィの事実上のリーダーはフィル・ライノットというブラジル系アイルランド人です。そ-言うわけですから、彼の佇まいはアイルランドのバンドと聞いて思い浮かべるところと随分違います。しかし、アイルランド民謡を題材にした曲作りが得意だったりするので、音はU2よりもよほどアイルランド的です。彼らの最高傑作は意見が分かれるところですが、このアルバムも一つの候補となる作品です。彼らは比較的メンバー・チェンジが多いのですが、この作品は唯一、伝説となってしまったギタリスト、ゲイリー・ムーアが全面的に参加したアルバムです。ゲイリー色が強いですかね。~続⤵️

f:id:montana_sf16:20220407143722j:image f:id:montana_sf16:20220407143811j:image🎦Thin Lizzy - Waiting for an Alibi (Official Music Video) - YouTube

速弾きギターが冴えています。ゲイリーは前からこのバンドとは仲がよかったようですが、品行方正な人だけに、バンドの酒とドラッグ浸りが許せず、このアルバムの後、早々に脱退してしまいます。つまり、そんなバンドなんですね。彼らはご機嫌でポップなハード・ロック・バンドです。キャッチーなリフ、ツイン・リード・ギターのバトル、ファンキーな野太いベース、男っぽいボーカルがぴたりと決まると、とてもカッコいいです。それでいて、どこかチンピラ感があるんです。そこがいいです。このアルバムの白眉は、タイトル曲です。アイルランドの詩人の書いた詩に触発された曲で、アイルランドの神話上の英雄クー・フリンや、現実の英雄、ジェームズ・ジョイスバーナード・ショーオスカー・ワイルドヴァン・モリソンなどが歌いこまれています。さらにインスト部分ではアイルランド民謡のフレーズが編みこまれます。アイルランド代表の面目躍如たるものがあります。そんな気高いところもあるのですが、「S&M」なんていう曲があったりしますし、邦題名「ヤツらはデンジャラス!!」なんていう曲もあります。後者は原題が「ドゥー・エニシング・ユー・ウォント」です。つまり、こ-いう邦題がつくような扱いだったということなんです。面白いです。

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久しぶりにシン・リジィを聴いてみて、胸が熱くなりました。ロックはこうでなくてはいけません。。😌🎵🎸

Black Rose A Rock Legend / Thin Lizzy (1979)

参考 ⇒🎦Black Rose - Gary Moore Thin Lizzy Phil Lynott tribute in 2005 - YouTube

アル・グリーン レッツ・ステイ・トゥゲザー (2019―7)

f:id:montana_sf16:20230413091301j:image🎦Al Green - Let's Stay Together (Full Album) [1972] - YouTube

アル・グリーンは1978年に第7回東京音楽祭に出場し、見事にグランプリを獲得しています。この年はケイト・ブッシュも出場して銅賞、パット・ブーンの娘さんデビー・ブーンが金賞、布施明が最優秀歌唱賞、五輪真弓が作曲賞などとなっています。グリーンは「愛しのベル」という楽曲でしたけど、この時、ぼーっとテレビを見ていた自分はあまりの歌唱力に思わず正座してしまいました。”歌が上手い”とはど-いうことなのかをそれまで誤解していたとさえ思いました。本人は軽く歌っていたのかもしれませんが凄かったー!。「レッツ・ステイ・トゥゲザー」はメンフィスの貴公子と呼ばれるアル・グリーンが「マーヴィン・ゲイを脅かす全国区のビッグ・ネームへと羽ばたく」ことになった曲であり、アルバムです。ここからアル・グリーン物語が本格的に始まったと言えます。スタックスと並ぶメンフィスのソウル・レーベルがハイです。レーベルの設立は1950年代前半と古いですが、最盛期を迎えるに経営者となるプロデューサー、ウィリー・ミッチェルがアル・グリーンと出会ってからのことです。子どもの頃からゴスペルを歌っていたアル・グリーンは1968年に別レーベルからデビューしていましたが、それがミッチェルの目にとまり、翌年ハイ・レコードから再度デビューすることになりました。本作はそれから3年、全米1位に上り詰めた表題曲を含むアルバムです。

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🎦Al Green - Let's Stay Together Live 1972 - YouTube

もともとゴスペラーですから、派手に歌いたかったでしょうが、ミッチェルはグリーンにソフトに歌うよう説得した模様です。これが功を奏しました。シャウトすることなく、あくまでソフトに、極めて洗練された弾力のある声で歌われます。メロメロになること請け合いです。そして演奏がまた素晴らしい。ドラムにブッカーT&MGズでも活躍していたアル・ジャクソンとハワード・グライムス、ベース、キーボード、ギターにホッジス兄弟というリズム・セクション、そしてミッチェルを始めとするホーン・セクションにストリングスという布陣です。同じアル・ジャクソンを起用していてもこちらは随分と抑えめのシンプルな演奏です。しかし、このシンプルさが癖になります。誰にも出来そうでいて決して出来ない、激渋な演奏が素晴らしい。グリーンのソフトなボーカルにぴったりなハイ・サウンドです。アルバムの冒頭はもちろんタイトル曲です。美しいメロディーの代表曲です。軽快な演奏にのせて、そっと軽く歌い出すと、さびも含めて終始抑えた調子で曲が進んでいきます。その中に得も言われぬグルーブが浮き出てくるところが凄いです。この曲はミッチェルとジャクソン、そしてグリーンの共作です。アルバムにはビージーズのカバーも含まれていますが、ほとんどがアル・グリーンの手になる曲です。もうこの演奏とこの歌ならば、曲は何でもよいのではないかとさえ思いますが、ちゃんといい曲が揃っています。ハイ・サウンドはこの作品で完成したと言えるのでしょう。洗練されてはいますが、体温を感じるサウンドでもあり、醸し出されるグルーヴに酔いしれてしまいます。アル・グリーンにささやくような歌を歌わせたことはミッチェルの見る目が確かな証拠でした。

Let's Stay Together / Al Green (1972 Hi)

チープ・トリック 永遠の愛の炎 (2022―3)

f:id:montana_sf16:20240412215244j:image💿️Lap Of Luxury - YouTube

まさかまさか。チープ・トリックはシングル曲「永遠の愛の炎」で全米1位を獲得したのでした。まさに晴天の霹靂です。武道館を沸かせてから10年が経過し、久しく聞かなくなっていたチープ・トリックの名前が大きくクローズアップされたのです。驚きました。チープ・トリックの前作「ザ・ドクター」はレコード会社が横やりを入れて大失敗に終わりました。それに懲りたのかと思いきや、レーベル側はまだまだ手ぬるかったとばかりにさらに大々的に本作に介入しました。それが今度は大成功、ファンの胸中は複雑です。前作にはメンバーの反感をかったレーベル側が見つけてきたごり押し曲「キス・ミー・レッド」がありました。1曲だけでしたが、本作品ではほぼ全曲が「キス・ミー・レッド」になりました。リック・ニールセンを始め、メンバーには大きな葛藤が生じたことでしょう。原題は「ラップ・オブ・ラグジャリー」ですが、邦題は大ヒット曲の曲名を持ってきて「永遠の愛の炎」とされました。ファンも代替わりしており、この曲からチープ・トリックを知った人も多いことでしょうから、この邦題はレコード会社的には大正解です。複雑な思いを生じさせるアルバムですけども、オールド・ファンには嬉しい事件もありました。オリジナル・メンバーのトム・ピーターソンの復活です。これでオリジナルの四人組に戻りました。それでいきなり大ヒットというのはジョン・ブラントに申し訳ない気もします。プロデューサーはまたまた交代し、今回はリッチー・ズィトーが起用されました。~続⤵️

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 f:id:montana_sf16:20240412221310j:image🎦Cheap Trick - The Flame - YouTube

🎦Cheap Trick - Ghost Town (Official Video) - YouTube

彼はジョー・コッカーやエディ・マニーなどのアルバムをプロデュースしたり、日本のアニメ「プロジェクトA子」のスコアを書くなどの活躍をしていますが、代表作には本作品が上がることが多いです。ズィトーのプロデュースしたサウンドは前作のようないかにもヒット狙いではなく、比較的オーソドックスなハード・ポップ路線でまとまっています。どちらかというと黄金期のトム・ワーマンに近い気がします。奇をてらわずにチープ・トリックの魅力を素直に発揮させています。アルバムの内容ですが、全10曲のうち、メンバーだけで作曲した曲はわずかに1曲、「ネヴァー・ハド・ア・ロット・トゥ・ルーズ」のみです。ロビン・ザンダーとトム・ピーターソンの二人による曲で、シングル・カットもされてマイナー・ヒットを記録しています。その他はすべて外部ライターが関わっています。それも、エルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで」を例外に、いずれも本作品が初出という意味で書下ろしに近いです。全米1位曲「永遠の愛の炎」も元アトミック・ルースターのニック・グラハムとボブ・ミッチェルの作品です。チープ・トリックの知名度、演奏力に期待したレーベル側の作戦は功を奏し、アルバム自体も全米16位となり、プラチナ・ディスクを獲得する大ヒットとなりました。「冷たくしないで」も全米4位です。チープ・トリックの表現力の高さが証明されたということでしょう。しかし、プロダクション主導の作品作りはまるで日本のポップス界のようです。バンドとしてはフラストレーションが高まったことでしょうが、大ヒットには逆らえません。いい曲ばかりですし、演奏もはつらつとしていたりして、もやもやが募るばかりのアルバムです。
Lap of Luxury / Cheap Trick (1988 Epic)

ハービー・ハンコック フューチャー・ショック(2013―11)

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f:id:montana_sf16:20230411141710j:image💿️Herbie Hancock future shock 1983 - YouTube

ハービー・ハンコックマイルス・デイヴィスのバンドにいたと聞いて驚いたという本末転倒な奴はどいつだ~い、アタイだよ~。思わず、にしおかすみこになってしまいました。エンタの神様を久しぶりに見たせいです。何と言ってもハービー・ハンコックはこの「フューチャー・ショック」の人だと思ってる人が多いのではないでしょうか。こんな人がジャズの帝王マイルス門下生だったとは驚きでしょう。そして、ジャズ・ファンの方には逆の驚きがあったんでしょうね。あのハービーがこんなことを...。このアルバムはヒップホップ黎明期に放たれた作品です。ニューヨークの怪人ビル・ラズウェルと組んで作り上げられたヒップホップ満載の作品からは、衝撃的なビデオ・クリップとともに「ロック・イット」の大ヒットが生まれました。グラミー賞までとってしまう活躍ぶり。当時のヒップホップの手法は、レコードのイントロやアウトロ、間奏などいわゆるブレイクの部分を延々と繰り返すブレイク・ビーツや、レコード盤を擦るスクラッチ、それにラップでした。まだまだ音は安っぽかったんですけども、衝撃的だったことは間違いありません。と当時のことに思いを馳せて、「ロック・イット」を久しぶりに聴いてみますと、強烈に懐かしいです。激しいビートにスクラッチ、ぶんぶんベースの性急なテンポの曲で、いろんな工夫がされているので、飽きさせません。こう並べるとそんなことなさそうですが、強烈に時代を感じます。

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f:id:montana_sf16:20240412074808j:image f:id:montana_sf16:20230411150052j:image🎦Herbie Hancock - Rockit (Official Video) - YouTube

🎦Herbie Hancock - Rockit (Live) - YouTube

実は当時、まさにこの再現コンサートとも言えるライヴを観に行きました。←(※よみうりランド オープンシアター East) クラブ・サウンドを方向づけたなんて言われますけど、クラブ系のサウンドに位置づける人は今はいないのではないでしょうか。大きな根っこになっているというよりも時代のあだ花的な位置づけなんですね。そんな不思議なところがとても面白いです。シンセサイザーやらドラム・マシーンやらヴォコーダーなどの当時最先端機材に加え、スクラッチサウンドがアクセントを付けるエレクトロ・ヒップホップ・ファンクなサウンドを、ハービーさんのしっかりしたキーボードさばきがビシッ!と締める。そ-いう作品なんですけど、クラブ系サウンドとはやはり一線を画しそていますし、今や主流となっているヒップホップともテイストが違います。そこはやはりマイルス門下生だったりするからでしょうか。それにビル・ラズウェルさんもやはり新世代ではないですから。そんなわけで歴史に残る問題作なんですけども、どこか時代のあだ花的なチープな感じがつきまとう面白い作品です。実際観に行った自分にとってみれば、懐かしさとともにとても愛おしい音が溢れてきて、感慨無量です。

Future Shock / Herbie Hancock (1983 Columbia)

🎦Herbie Hancock Rockit live in Japan 1984・ハービーハンコック ロックイットライブ・イン・ジャパン - YouTube

ストレイ・キャッツ 涙のラナウェイ・ボーイ (2017―4)

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ここ日本では、まだあどけなさを残したティーンエイジャーが、お父さんの時代のレトロなロカビリーを粋がって奏でているというのがストレイ・キャッツの一般的なイメージでした。ですから、本作品も邦題は「涙のラナウェイ・ボーイ」、次作は「ごーいんダウンタウン」です。このデビュー・アルバムが発表されたのは1981年2月、原宿では竹の子族が話題になり始めた頃です。ローラー族はもう少し後のことですけれども、日本にはロカビリーのクールスがいましたから、ストレイ・キャッツはそのアイドル版と言った趣きでした。しかし、このバンド、そんなイメージとは裏腹になかなか凄いバンドでした。どうせ下手クソだろうと思った人が多かったのに、特にブライアン・セッツァーのギター・ワークは多くの人の度肝を抜いたと思います。かっこよすぎ。デビュー作となる本作は英国のチャートで6位にまで上がるヒットとなり、「涙のラナウェイ・ボーイ」と「ロック・タウンは恋の街」はシングルとしても大ヒットしました。彼らの最高傑作と衆目が一致する素晴らしいアルバムです。ストレイ・キャッツは英国で本格的にレコード・デビューしましたけれども、元々はニューヨークのバンドです。彼らのトレードマークとなるロカビリー・サウンドはニューヨークでも話題になっていたようですが、英国に渡ってからその人気に火が付きました。そのストレイ・キャッツはギターとボーカルのブライアン、ドラムのスリム・ジム・ファントム、ベースのリー・ロッカーのトリオです。

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スリムのドラムはスタンディング、リーのベースはウッド・ベースをスラップ奏法でというこだわりようでロカビリーの世界を再現します。プロデューサーには、ニック・ロウとのコンビで知られるロックン・ロールの探求者デイヴ・エドモンドが当たりました。ストレイ・キャッツとのケミストリーがばっちりであることは、このアルバムの完成度の高さを見れば一目瞭然です。デモ音源を聴くと、リーはスラップ奏法をしておらず、制作中に懸命に練習した模様です。ここに典型を見る通り、デイヴとストレイ・キャッツサウンドの完成に向けて、並々ならぬ力を注いでいます。ますます最初に掲げたイメージが当たらないことが分かってきます。ロカビリーはエルヴィス・プレスリーが始めたようなものですが、このアルバムにはその頃のロカビリー曲のカバーも含まれています。ロカビリー調のオリジナル曲もあるものの、他にもスカを取り入れたサウンドやクラッシュのようなロックン・ロールなど意外と幅が広い。アルバムには収録されていませんが、シングルB面ではモータウンの曲もやっていることから分かるように、基本ロカビリーながら原理主義者ではありません。オリジナリティーもあり、演奏能力も高い。それでいてロカビリーの文句ない楽しさに充ちています。このアルバムがネオ・ロカビリーとかパンカビリー呼ばれるブームを巻き起こしたと言っても過言ではありません。50年代を80年代に蘇らせた功績は大きく、単なるアイドル・タレント扱いしていたマスコミには反省を迫りたいものです。

Stray Cats / Stray Cats (1981 Arista)

レインボー バビロンの城門 (2024―3)

f:id:montana_sf16:20240405174532j:image💿️Long Live Rock 'n' roll-Deluxe Edition Full Album - YouTube

レインボーの約2年ぶりとなるサード・アルバム「バビロンの城門」です。ライブ・アルバムをはさんでいるとはいえ、2年も間が空くと、またまたメンバーが交代しています。レインボーのアルバムを語る場合にはまずメンバーをチェックするのが恒例になってきますね。本作品では前作に起用され、ライヴもこなしたベースのジミー・ベインがいなくなりました。ベインはレインボーに入る前はほぼ無名でしたけれども、レインボー脱退後にはロニー・ジェイムズ・ディオのディオなどでそれなりに活躍をつづけましたから一安心です。代わりに元ユーライア・ヒープのマーク・クラークが起用されましたが、うまくいきませんでした。そこでリッチー・ブラックモアがやむなくベースも兼任してアルバム作りが続けられました。キーボードのトニー・カレイもこの時点で解雇されています。出入りが激しいですね。結局、ベースにボブ・デイズリー、キーボードにデヴィッド・ストーンというセッション・ミュージシャンが起用されることとなり、ブラックモア、ディオ、コージー・パウエル三頭政治という言葉がますますぴったりくる布陣で本作品が制作されたのでした。とはいえ、実際には本作品の邦題となった楽曲「バビロンの城門」などは、クレジットにはないとはいえ、ストーンが大半を書いたそうですから、音楽的には必ずしも三人による専制となっていたわけではなさそうです。バンドというものは面白いものです。本作品は直訳すると「ロックンロールよ永遠に」とタイトルが付けられました。何といいますか、実にレインボーらしくない。~続⤵️

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f:id:montana_sf16:20240409115613j:image🎦Rainbow - Long Live Rock N Roll (From "Live In Munich 1977") - YouTube

ロックンロールという言葉がブラックモアから出てくるとはそもそも意外です。その戸惑いが邦題を「バビロンの城門」としたのだと思います。A面最後の大曲「バビロンの城門」はオリエンタルなムードが漂う実に端正でレインボーらしい楽曲です。キーボードもストリングスも大活躍しており、日本でのレインボーの受け入れられ方からするとよほどこちらの方がタイトルにふさわしいと自分も思います。もう一曲、タイトル候補を挙げるとすると、最後の曲「レインボー・アイズ」です。しばしばレッド・ツェッペリンの「天国への階段」に比較されるスローでドラマチックな楽曲です。フルートとストリングスが大活躍する曲で、ヘヴィ・メタル・アルバムには欠かせないアクセントです。一方、ハードな曲では原題曲「ロング・リヴ・ロックンロール」と「キル・ザ・キング」が人気です。後者は「バーン」に似ているところが玉に瑕ですけれども、どちらもパウエルのドラムが冴えわたるヘヴィ・メタルの名にふさわしいスピード感あふれる名曲です。前作と比べると、各楽曲がコンパクトにまとめられている印象を受けます。ブラックモアの悲願である全米制覇を意図したものだと言われることもありますが、メンバーが流動的だったので大曲をこなすのがなかなか難しかったのではないかとも思います。「バビロンの城門」を例外としてキーボードは目立たず、ソロはほぼブラックモアのギターが独占しています。ブラックモアはとにかくギターを弾きまくっており、聴きどころが多い。前作ほどには壮大な感じはしませんけれども、はつらつとしたサウンドはとてもかっこいいです。

Long Live Rock 'n' Roll / Rainbow (1978 Polydor)

バウ・ワウ・ワウ ジャングルでファンファンファン (2016―3)

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f:id:montana_sf16:20240408135330j:image f:id:montana_sf16:20240408142235j:image💿️Bow Wow Wow - see jungle! see jungle! go join your gang yeah, city all over! go ape crazy! - YouTube

ジャケット写真は有名なマネの「草上の昼食」を模したものです。撮影者はまだ学生だったアンディ・アール、場所は彼によるロケハンで英国サリー州ライゲートに決まりました。発案はもちろん英国パンクの仕掛け人マルコム・マクラレンです。衣装は同じくパンクの立役者ヴィヴィアン・ウェストウッドです。可哀想なのは事前に何も知らされてなかった15歳のアナベラちゃんです。半ばマルコムに脅されて裸にされたわけですから、後にお母さんが激しく抗議したのも分かります。アナベラはミャンマー人の父と英国人の母を持つ女の子で、当時クリーニング屋で働いていたところをスカウトされてオーディションを受け、バンドのボーカリストに収まりました。ロックのことを何も知らず、何でもない普通の若い女の子だから採用したとマルコムが語っています。バウ・ワウ・ワウはマルコムが仕掛けたバンドです。バンド・メンバーは彼が当時手掛けていたアダム・アントのバンドから引き抜いた3人にアナベラを加えた4人です。ですからどうしてもマルコム中心に語られてしまうバンドです。彼らは最初カセット・テープでデビュー作を発表します。片面がブランクで何でも録音できるようになっていたそうですから面白いコンセプトです。そして、この作品がレコードによるデビュー作です。派手なジャケットが話題を呼びましたがサウンドも面白いものでした。

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🎦Bow Wow Wow Live Sefton Park 07/09/82 - YouTube

当時、英国のニュー・ウェイブ界ではブルンジ民族音楽のドラムを使った「ブルンジ・ブラック」なるアルバムがヒットしていました。アフリカのドラムにしてはシンプルなこのドラムのパターンはとても新鮮なものでした。バウ・ワウ・ワウのデイヴ・バルバロッサはこのブルンジのドラムにもろに影響を受けた手数の多いドラムを叩いています。これを軸に、リー・ゴーマンのチョッパーばりばりベースに、サーフィンっぽいマシュー・アッシュマンのギターでサウンドが成り立っています。そこにど素人がゆえのキュートさが光るアナベラの叫ぶような可愛らしいボーカルが、ポップなメロディーを歌うという、言ってみればハチャメチャな組み合わせのサウンドが彼らの持ち味です。彼女を選んだのはマルコムの慧眼でした。やたらと達者な演奏陣はアナベラに我慢がならなかったそうですけれども、アナベラの魅力がなければ、彼らはマルコムの操り人形のようになってしまっていたでしょう。モヒカン・ヘアも含めて十代の女の子の代弁者としてスターのオーラを放っていましたから。後のジャングルとは関係ありませんが、彼らのビートはジャングル・ビートと呼ばれました。「ジャングル・ビート、エスノ・ファンク、ダブなどが織り込まれたトロピカルなニュー・ウェイブサウンド」と形容されるサウンドです。コンセプト先行型のバンドでしたけれども、その繰り出したサウンドはとても魅力的でした。しかし、どうしても作られたバンドであることは否めず、こんなに素晴らしいサウンドなのに、成功は長続きしませんでした。大変残念です。

See Jungle! See Jungle! Go Join Your Gang Yeah! City All Over, Go Ape Crazy / Bow Wow Wow (1981 RCA)

参照:The 100 Greatest Rock'n' Roll Photographs (Q)

スティーヴ・ハウ ビギニングス (2011―10)

f:id:montana_sf16:20240407221013j:image💿️Beginnings - YouTube

エスは「リレイヤー」を引っ提げたツアーを敢行した後、しばらく活動を休止します。その間、申し合わせもあったのでしょう、メンバーそれぞれがソロ・アルバムを制作します。多分にソロでも大成功を収めている脱退したリック・ウェイクマンへの対抗心もあったことでしょう。その第一弾となったのがスティーヴ・ハウの「ビギニングス」でした。ハウはイエス加入以前にもトゥモロウやボダストなどなど、さまざまなバンドに在籍してレコードを残していますし、そもそもリード・ギタリストですから、まずは順当といえるでしょう。ハウのソロ・アルバムに関しては、早くから話だけはあったそうで、ハウ自身もそれに備えて次第にデモを作ってはカタログ化していました。それらの一部はイエスの楽曲にも使われたそうです。ともあれ、こうしてソロ・アルバムの準備は万端整っていたわけです。アルバム作りはまず、中世の音楽を標榜するプログレ・バンド、グリフォンのメンバーを招いたセッションから始まります。これが3曲目の「遥かなる海」です。海をめぐるさまざまな状況を演奏だけで描いた曲だそうで、中世の雰囲気が少し漂う小粋な曲です。続いてドラムこそがレコードの土台になるという信念から、ハウはドラマーとの共演を模索します。最初に呼ばれたのはイエス仲間のアラン・ホワイトで、ホワイトとのセッションからは4曲が収録されています。うち2曲はホワイトとハウのデュオです。さらにドラマー・シリーズとして元イエスのビル・ブルーフォードと同様の形で2曲を制作しています。 ~続⤵️

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 f:id:montana_sf16:20240408124827j:image🎦Steve Howe Beginnings - YouTube

ここでも うち1曲はブルーフォードとハウのデュオです。これらのデュオではハウはギターに加えてベースやボーカルなども担当しています。これらの曲でベースをハウ自らが担当するのはドラマーの自由度を高くするためなのだそうで、ハウが日頃からどのようにドラムを捉えていたかが分かるというものです。バンドの作品では実験できないソロ・アルバムならではの趣向です。タイトル曲は収録曲中最も長い曲で、作品中唯一オーケストレーションが施されています。ここではイエス仲間のパトリック・モラーツがアレンジを担当しています。自分の力に余ると判断したハウがモラーツに依頼したもので、素直なハウらしさが表れています。「ラム」1曲だけはハウ一人で全てを演奏していますけども、アルバム全体にギターを前面に押し出そうという空気はありません。さまざまな形のセッションの中でギターが渋く光る、そんなサウンドが展開されています。ハウの人柄そのままです。しかも大半の曲でハウはボーカルを披露しています。ジョン・アンダーソンがいかに凄いボーカリストであるかを知らしめる素人くささですが、このアルバムには結構ぴったりです。もとになったデモのカタログっぽい雰囲気が濃厚だからです。ジャケットにはしっかりとロジャー・ディーンが起用されています。そのかいもあって英米ではきっちりとヒット・チャートに顔を出すヒットになりました。ハウらしい、暑苦しくないさわやかなサウンドは清涼な魅力を発揮しており、とにかく気持ちがいいです。

Beginnings / Steve Howe (1975 Atlantic)