メタリカ メタル・ジャスティス (2016―10)
💿️...And Justice For All - YouTube
メタリカとの最初の出逢いは、多くの人と同じく、本作品に収録された「ワン」のミュージック・ビデオでした。メタリカにとって初となるMVは斬新なものでしたし、そこで扱われているテーマはとても重く、のほほんとMTVを見ていた自分もおもわず居住まいを正しました。メタリカはこのMVのために映画「ジョニーは戦争へ行った」の権利を買って映像を使用しています。戦争のもたらした悲劇が描写されるわけですが、日本には江戸川乱歩の「芋虫」というさらに身も蓋もない小説があって、おもわずそっちを思い浮かべてしまいました。メタリカは傑作だった前作「メタル・マスター」を成功させましたが、そのツアー中にベースのクリフ・バートンが交通事故で亡くなるという悲劇に見舞われました。バートンは音楽教育を受けた人で、曲の構成に大きな役割を果たしていただけに損失は大きかったです。解散も考えたメタリカでしたが、バートンは存続を望むはずだ。と意を決した彼らは後任ベーシストのオーディションを行い、新たに同じスラッシュ・メタルのフロットサム・アンド・ジェットサムにいたジェイソン・ニューステッドをメンバーに加えて再出発しました。本作品は新たな布陣のメタリカによる初めてのアルバムです。悲劇からほぼ2年、「9か月間も頭痛と二日酔いに悩まされ、その合間に時々頑張って仕事をした甲斐があった」とボーカル&ギターのジェイムズ・ヘットフィールドが漏らすニュー・アルバムです。この作品は確かに難産だったようです。~続⤵️
バンドは最初にプロデューサーとしてガンズ・アンド・ローゼズの「アペタイト・フォー・ディストラクション」をプロデュースしたマイク・クリンクを起用しましたが、両バンドの違いは大きく、結局、彼は途中で解雇されています。後を継いだのは前作でもプロデューサーを務めたフレミング・ラスムッセンでした。録音がほぼ終わってからのプロデューサー交代はなかなか大変でしょうね。それもあってか、本作品のミックスは悪評が高いです。曰く、ベースの音がほとんど聴こえない。確かにその通りで、もう一つの重低音を担うバスドラもとんつく鳴るのみですから、サウンドに慣れるのにしばし時間を要します。慣れた頃にバートンに捧げた「トゥ・リヴ・イズ・トゥ・ダイ」となり、そこではバートンの生前のベースが大きく使われていて何だかもどかしいです。それでも、本作品はメタリカにとっては新しい出発を記録したアルバムとして大成功を収めています。曲はより複雑にプログレッシブになっており、その中でギターが大活躍して印象的なフレーズを次々に繰り出します。前作とは少し趣きが異なる感じがします。全9曲で65分とそれぞれの楽曲は長尺となり、ポップに流れることなくヘヴィ・メタルの本領を発揮しています。その中でも前述の「ワン」は世界的に大ヒットし、全米トップ40入りするヒットになっています。重いメタル曲がシングル・ヒットするのは異例のことでした。アルバムは全米6位となり、プラチナ・ディスクを獲得、1年半以上に渡ってチャート入りしています。大ヒットです。なお、グラミー賞でもベスト・メタル・パフォーマンス賞にノミネートされましたが、受賞したのはジェスロ・タルでした。物議をかもした賞レースでした。。😔
...And Justice For All / Metallica (1988 Elektra)
ソニー・ロリンズ サキソフォン・コロッサス (2011-7)
💿️ソニー・ロリンズ;サキソフォン・コロッサス - YouTube
最近、ジャズ入門書をよく見かけます。入門のためのCDセットなども販売されています。そ-いえば以前、タモリさんも仰ってましたネ。「ジャズを聴く」という行為には順序がある。と、、🙄 ま、その言葉尻のみをストレートにとらえて反論するばかりではタモリさんの主張は理解出来ないでしょう。とはいえロック入門とかJポップ入門などの本はあまり見かけないことを考えると、「ジャズは勉強するものだ」という考えが一般に広く浸透しているということが言えるでしょう。かく言う自分も、ジャズ入門を志したことがあります。友人(同級生)にジャズ狂いがいまして、ロック代表の自分と、ロックがいいかジャズがいいかよく論争してました。これって本当、まじ馬鹿馬鹿しいと思うかもしれませんけど、若いうちから「私は良い音楽ならジャンルにはこだわりません」なんて言っているよ-な人は、たいてい大人になると音楽を聴かなくなって、「思い出のメロディー」とかいうテレビ番組をありがたがって見るようになるもんです。おそらくあなた方の周りにも居ると思います。こだわりも大事です。敵を知るには勉強せねば、ってなワケで志したジャズ入門ですから、その同級生にお勧めを聴くわけにもいきません。なので名盤100選なるものを買ってきて研究しました。その結果、最初に買ったのがこのアルバムです。レコード屋さんは、どうして、見抜いたのか「ジャズ入門」という小冊子をオマケに付けてくれました。それどころか「クラシック入門」までくれました。この話からも分かる通り、この作品は誰もが認めるジャズ史に残る大名盤です。後年、居丈高だと評されることもあるロリンズのサックスですが、この作品に限っては悪評は皆無です。まず見たことがありません。聴いてみて、どう思ったかと言いますと、緊張しながら針を落として、軽快なドラムのイントロに導かれてロリンズの野太いサックスが出てきた時は驚きました。敵であるはずなのに素晴らしいな~♪と思ってしまい、何となく「これで自分も一皮むけた」と妙な感慨にふけるヨーな気分になりました。もちろんその同級生には内緒でしたし、ジャズ口撃は続けましたケドwww😜/ ~続⤵️
※➀🎦- YouTube
※➁🎦- YouTube
その後、「ジャズ入門」に導かれるままに、同時期の名盤群を渉猟することになりました。この作品は実におおらかで、男気にあふれています。四人の息もぴったりで、聴いていて実に楽しくなります。曲も、「セント・トーマス」やら「モリタート」やらキャッチーな名曲ぞろいです。ロリンズは「メロディーの魔術師」と言われているそうですが、確かにこのサックスの歌心はすばらしいと思います。ユーモラスでいて、強靭です。この作品は、ジャズ史上に燦然と輝く傑作で、ロリンズといえば、この「サキコロ」ということになります。ロリンズ26歳の作品ですが、今でも来日公演の時の客寄せコピーにはこの作品が引き合いに出されます。音楽ではよくある話ですが、若い頃に奇跡のような作品をつくりあげて、生涯、それを越えられない、ということなのでしょうか。それでもスタイルを変えない頑固さというのが、またこの人らしいと思います。でも、スミマセン🙏💦、その後来日公演なども何度か観に行くようにはなりましたが、当時の自分はロリンズのその後を語る資格は全くありません。実は、それっきりロリンズの作品はこれ以外まともに聴いたことなかったです。ここまで最高傑作だ、最高傑作だと言われると、確かに素晴らしいこの作品を聴けば、もうお腹いっぱいになってしまったんです。何しろ入門者だから、いろいろと勉強しなければならないということで、ロリンズはこれでおしまいにしてしまいました。もしや?、同じような人は他にもいらっしゃるのではないでしょうか。。🤔 ナンカキニナル?…🙄
とりあえず実際にLIVE参戦した動画を載せておきます。※➀➁
Saxophone Colossus / Sonny Rollins (1956)
ビヨンセ 4 (2011―7)
💿️Beyonce: 4 (Deluxe Edition) [Audio] - YouTube
🎦Beyoncé - 4 (Full album + Bonus) - YouTube
ビヨンセの4枚目のアルバムはシンプルに「4」とされています。4は彼女にとってのラッキー・ナンバーなんだそうですね。単なる4ではないということでしょう。実はあまりビヨンセには興味がなかったんですが、「ドリームガールズ」で俄然ファンになりました。あの映画では「ジェニファー・ハドソンよりも歌が下手」という役どころで、彼女は途中まで完璧に演じています。リアルにそうなんだろうと皆が思い始めた終盤、ジェイミー・フォックスへの恨み事を歌にのせた時の迫力には思わず正座をしてしまいました。「ビヨンセすげー」と感動しちゃったんです。つまり前半部分はリミッターをかけていたんですね。というわけでビヨンセ作品です。前作に比べるとカラフルな印象を受けます。今回は第二の人格サシャを本体に吸収して出来ているということですから、それがカラフルの原因かもしれません。辛気臭くない。人気も上々で、当然のように全米初登場第1位です。今回も売れるんでしょうね。どなたかが90年代のR&Bの香りがすると書いていらっしゃいましたが、聴いていると90年代だけではなくて、60年代のガールズ・グループのようなところもありますし、70年代、80年代とあらゆる時代のミクスチャーのような感じがします。もちろん当代一流のアーティストばかりが参加していますから、それでいてとても新しいです。~続⤵️
今回、彼女は、フェラ・クティ、スタイリスティックス、ローリン・ヒル、マイケル・ジャクソンの影響を受けたと言っていますが、そこはあまり分かりません。多分に精神的なものなのでしょう。ただ、マイケルには全体の感じが似てきているかもしれません。今回、ジャンル分けで「ブラック」とするか迷いましたが、もうビヨンセはマイケルと同じく、そうは分類できない気がします。それにしても、ビヨンセは歌がうまいです。現存する歌手の中で一番歌がうまいと言われることもありますが、一概に否定できません。どんなに高い声を出しても艶は失われないし、どんな曲でも歌いこなします。今作では声のギター・ソロも聴けます。全体に圧倒的な歌唱力に聴き惚れてしまいます。しかし、複雑な気持にもなります。大きな才能とともにとてつもない器用さを合わせもっているので、何でも出来てしまう、ポール・マッカートニー状態にあるような気がします。つまり高水準のアルバムは簡単に作れるけれど、それこそ突出したアルバムは生まれにくいという状態です。このアルバムはとてもいいアルバムだとは思いますが、マイケル・ジャクソンの「スリラー」後のアルバムのように、いいアルバムだというだけでは世間も心の底では満足し切れないのではないでしょうか。しかも彼女にはまだ「スリラー」もありません。あまり他の仕事にかまけずに、一発、超巨大な花火をぶちあげてほしいものです。期待しています。。
4 / Beyoncé (2011)
ビヨンセ アイアム・・・ サーシャ・フィアース (2016―9
🎦Beyonce I Am... Sasha Fierce (Platinum Edition) - YouTube
世界を席巻する米国ショウビズ界でトップの座を争うスーパースターなのに、どこか不安げで自信のなさそうな佇まいの写真がジャケットを飾っています。このアルバムのジャケットにはさまざまな種類がありますが、自分はこのデラックス・エディションのものが一番好きです。この作品はビヨンセの3枚目のアルバム「アイ・アム・・・サーシャ・フィアース」です。ビヨンセにとって初めての2枚組です。LP以外には2枚組の意味がありませんけども、この当時からレコード盤の復権を予期していたのだとするとビヨンセは凄いです。2枚組の意味合いはそれぞれを異なる人格が作っているというところにあります。前半が傷つきやすい素のビヨンセ・ノウルズによる「アイ・アム」、後半は彼女が作り上げたステージ上の人格「サーシャ・フィアース」によるセルフ・タイトル盤です。ジャケット写真は「アイ・アム」のもので、ブックレットにある「サーシャ・フィアース」の写真はティエリー・ミュグレーやジャン・ポール・ゴルチェの衣装をまとった我々のよく知るスーパースター、ビヨンセの写真です。隣に来られたら緊張のあまり気絶しそうです。サウンドの方も二枚で区別しており、それはシングルもそれぞれの盤から1曲ずつ同時にカットするという徹底ぶりです。ビヨンセは二重人格であると自称する彼女の二つの側面を一緒に聴いてほしいとする主張を徹底していきます。~続⤵️
「アイ・アム」はそれまでのビヨンセには珍しく1970年代から80年代のR&B的な雰囲気のスローなテンポの楽曲が並んでいます。一方で「サーシャ・フィアース」は同時代の先端を走るいつものビヨンセらしいアップテンポの尖った曲が集まっています。プロデューサーには20人を超えるアーティストの名前が並んでいます。ジョン・レジェンドの「オール・オブ・ミー」で知られるトビー・ガッド、後にアデルの「21」に深く係わるライアン・テダー、トリッキー・スチュワート、スターゲイトなどなどみんなヒットメイカーです。ただし、それぞれが両極端というほどに違っているわけではありません。後にビヨンセはサーシャ・フィアースを克服することになるのも道理で、はた目からするとどちらもビヨンセ本人に間違いありません。スーパースターの葛藤であったということでしょう。それほど変わらないというのは、どちらもビヨンセの圧倒的な歌唱力に支配されているからです。年寄りからすれば前半のストレートなR&Bバラード路線はまさに耳に至福をもたらします。しみじみとビヨンセの歌声に聴き惚れてしまいます。やっぱり凄い。一方、後半は先鋭的な分、むしろ安心して聴いていられるビヨンセです。シングル対決ではサーシャに軍配が上がりました。「イフ・アイ・ワー・ア・ボーイ」を押さえて「シングル・レディース」が全米1位に輝いたんです。ただしロング・セラーは前半からの曲「ヘイロー」です。この作品はもちろん全米1位、世界で800万枚を売り、グラミー賞でも10部門にノミネートされ、年間最優秀アルバム賞、「ヘイロー」が年間最優秀レコード、「シングル・レディース」が年間最優秀楽曲賞など6部門を受賞しました。まさに2008年を代表する作品です。
I Am... Sasha Fierce / Beyonce (2008 Music World)
ジューダス・プリースト ペインキラー (2021-5)
ジューダス・プリーストはNWOBHM 、つまりニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタルの代表的なスターという気がするのですが、彼らのバンド結成は1969年ですから、むしろレッド・ツェッペリンやディープ・パープルに近い世代ともいえます。彼らの凄いところは激動の時代にあってヘヴィメタルのスタイルを貫き通していることでしょう。パンクの時代にもブレずにヘヴィメタを続け、やがて世界的なバンドへと成長しました。ヘヴィメタルの権化、彼らのスタイルこそヘヴィメタルの王道です。それゆえにヘヴィメタルを社会の害悪と決めつける米国保守勢力の格好の攻撃の的になってしまいました。彼らの音楽のせいで子どもが自殺したとして裁判沙汰にまでなりました。もちろん無罪なわけですが、ジューダス・プリーストにとっては逆風には違いありません。 ~続⤵️
この作品は「20年以上に渡る活動歴の中での第二のデビュー」だと本人たちも認める力作「ペインキラー」です。裁判を起こされていた時期に発表されたアルバムですから、厄落としの意味合いもあったことでしょう。第二のデビューは見事に鮮烈なヘヴィメタ作品です。バンドはドラムのデイヴ・ホーランドが脱退して、スコット・トラヴィスに変わりました。スコットはレーサーXなるバンドにいたドラマーで、無名ながら卓越した技術が一部で評判となっていたそうです。彼のバスドラ・テクニックが本作品の一つの肝になっています。それから第二のデビューらしくプロデューサーが初期のアルバムのエンジニアをやっていたクリス・サンガライデスに変わりました。伊藤政則氏が久しぶりに引き合わせたことが縁になっているそうで、これまたブレないヘヴィメタの人、伊藤さんのお手柄です。南仏の「壮麗なグラン・シャトーの中にある」スタジオで自家製ワインに浸りながら録音は進んでいきました。「いわゆる商業的ヒット狙いの曲は収められていない、我々は超強力作品『ペインキラー』と『ア・タッチ・オブ・イーヴル』という叙事詩で勝負に出る覚悟をしたのだ」バンドが宣言するだけあって、本作品はポップのかけらもなく、ヘヴィメタの王道であるところの叙事詩的な楽曲が最初から最後まで続いています。メタル・ゴッドと言われるロブ・ハルフォードのシャウトも縦横無尽に活躍します。KKダウニングとグレン・ティップトンのギターもいわゆる泣きのギターではなく、スピード感あふれる硬質なギターとなっており、スコットの高速バスドラと絡んで、これまたヘヴィメタの王道。描かれる歌詞の世界も気持ちがいいほどヘヴィメタ的です。「カオス状態の世界で、文明が滅び、奈落の底に落ちた文明人の生き残りが助けを求めている。悪が支配する世界を焼き尽くし、文明人を救うために登場した」のが「ペインキラー」です。伊藤さんのライナーまで徹頭徹尾ヘヴィメタ様式です。 ~続⤵️

ジューダス・プリーストが作り上げたスタイルですから誰はばかることありません。貫き通したスタイルをまた初心に帰って第二のデビューとした心意気は素晴らしいです。最初から最後まで突っ走る、スカっと爽快なアルバムです。これを聴いて死にたくなる人など居るわけがないでしょう。
Painkiller / Judas Priest (1990 Columbia)
アイアン・メイデン パワースレイヴ (2025―9)
すっかりスーパースターになったアイアン・メイデンの5枚目のアルバム「パワースレイヴ」です。邦題がなくて寂しいですが、タイトル・トラックには「死界の王~オシリスの謎」と副題が添えられており、アルバムの帯にも小さいながらこの副題が印刷されていて慰められます。前作「頭脳改革」から1年。今度はエディーがファラオになりました。ピラミッドとアブシンベル神殿とアヌビス像とスフィンクスが合体したような古代エジプトてんこ盛りのジャケットが物語る通り、アルバムのタイトル・トラックは古代エジプトがモチーフになっています。このエジプト趣味はツアーのステージにも反映されました。本作品発表後、アイアン・メイデンは足掛け12か月に及ぶワールド・スレイヴリー・ツアーを敢行し、スーパースターとしての地位を盤石なものとしたのでした。数多の奴隷を従えたファラオは強い。とはいえ、エジプトをテーマにコンセプト・アルバムを作ろうとしないところがアイアン・メイデンです。各楽曲が物語を完結させており、全体はエディーが統一しているのだと言わんばかりです。エディーはアルバムを超えて、アイアン・メイデンのキャリアすべてを物語ります。シングル・カットされた「撃墜王の孤独」は第二次世界大戦の最中にイギリスとドイツの空軍同士が戦った、いわゆる「バトル・オブ・ブリテン」を題材にしています。スピットファイアとメッサーシュミットによる戦いです。シングルのジャケットではエディーが操縦士になっています。~続⤵️
もう一枚のシングル「悪魔の最終兵器(絶滅2分前)」は核戦争などによって世界が終わるまでの時間を表した世界終末時計が題材です。冷戦真っただ中で、核戦争への恐怖が高まっていた頃です。ちなみに2024年にはさらに進んで残り90秒となりました。本作品はアイアン・メイデン史上初めて前作と同じメンバーで制作された作品として知られています。ようやくメンバーが安定したことも、アイアン・メイデンのスーパースター化に拍車をかけました。迷うことなく、堂々とヘヴィメタル道を突き進むメイデンなのでした。安定は曲作りにも現れました。まず、曲が次第に長くなってきました。パンク的に3分程度の曲が中心だった初期に比べると、次第に6分を超える曲が多くなってきました。そうして、本作品には13分を超える大曲「暗黒の航海」まで登場しました。この曲は英国のロマン派詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの詩をもとに制作されており、ドラマチックな構成の妙を聴かせるプログレ的な楽曲です。プログレッシブ・メタルなる言葉が誕生するのは少し先ですが、この曲などまさにそれにあたるのではないでしょうか。本作品では、前作で完成したと思しき、高速ドラムにリード・ベースとツイン・ギターが絡み合い、どこか端正なボーカルがシャウトするアイアン・メイデン流のヘヴィメタル・サウンドがスケールをさらに大きくしてがしがしと迫ってきます。休む間もない狼藉ぶりです。この頃英国を席巻していたヒット曲コンピ「NOW」シリーズのおかげで全英1位こそ逃しましたが、英国で2位、米国で21位、日本でも13位と堂々たるヒットぶりです。本作品はアイアン・メイデンの人気の炎に正しく燃料を投下した作品なのでした。
Powerslave / Iron Maiden (1984 EMI)
ビリー・プレストン エヴリバディ・ライクス・サム・カインド・オブ・ミュージック (2017-10)
💿️Everybody Likes Some Kind Of Music - YouTube
ゴスペルのオルガン奏者として、10代になったばかりの頃から活躍しているビリー・プレストンは、その後、レイ・チャールズやリトル・リチャード、サム・クックなどのスーパースターのバック・バンドを務めるなど、ソウル・ミュージシャンの王道を歩んでいます。しかし、彼が他のソウルマンたちと一線を画すのは、ビートルズのアルバムへの参加です。それもアップル社の屋上でのライヴでエレピを弾いていたほどの濃密なかかわりです。アップル・レコードに移籍してもいますし、5人目のビートルズと呼ぶ人までいました。さらにビリーはローリング・ストーンズのレコードにも参加していますし、ジョージ・ハリソンのプロデュースでアルバムを発表してもいます。そのため、何となくソウル音楽ファンからは異端視というか際物扱いされていたように記憶しています。本作品はアップルから移籍したA&Mレコードからの3作目の作品「エヴリバディ・ライクス・サム・カインド・オブ・ミュージック」です。この作品は、彼を異端視する声に正面から答えたような作風で、ビリーはとにかくいろんなタイプの音楽に挑戦しています。タイトルからして、「みんな何かしら音楽が好きだろ?」と素直な気持ちを吐露しています。ソウルが一番、とかそういう狭量なことは言わない。世の中にはいろんな音楽があって、それぞれに好きな人がいるし、自分は全部好きだ。ってな感じでしょうか。ジャケットにはジャズ、ゴスペル、ブルース、ロックとありますが、本作品はそれにとどまらない幅広い音楽をみせつけてくれます。~続⤵️
アルバムのA面とB面それぞれの冒頭にタイトル曲をもってきてイントロ代わりにしています。コンセプト・アルバム仕様です。まず、タイトル曲に導かれて始まるのは、ゴスペル調のファンク、次いでスイング・ジャズ、正調ゴスペル、カントリー、シンガー・ソング・ライター風と続きます。各楽曲が短いのがいいです。ビリーの引き出しをカタログ風に整理してみましたという風情です。B面に移ると、タイトル曲が今度はさらに短く挟まれて、本作品からのヒット曲「スペース・レース」が始まります。アープ・シンセサイザーがびよんびよん鳴るディスコ調のインストゥルメンタル曲です。アナログ・シンセはなんでこんなにディスコ・ファンクに合うんでしょうかネー。続くブルースの「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー?」はストーンズの「ブラック&ブルー」収録の「メロディー」の原曲とも言われています。あちらでもプレストンにインスパイヤ―されたと書かれていますし、ピアノを演奏してますからね。かっこいい曲です。さらにブルージーな曲でつないで、次はボブ・ディランのカバー「イッツ・オーライト・マ」です。ディラン調と言ってよいでしょう。そして最後は大問題作「メヌエット・フォー・ミー」で、なんともろにクラシックです。これがまたサマになっています。徹底しています。こんな具合にビリーが好き放題やったコンセプト・アルバムは、想像できるように評判は芳しくありませんでした。つまり、必ずしもビリーの代表作とされることはありませんけれども、ビリー本人も楽しげですし、各楽曲はけっして遊びではありません。再評価されるべきアルバムだと思いますが。どうでしょう。。🤔
Everybody Likes Some Kind Of Music / Billy Preston (1973 A&M)
※参考:🎦- YouTube
フラワー・トラヴェリン・バンド サトリ (2017―8)
日本のロック界のドンといえば内田裕也です。数々の伝説に彩られた人ではありますけど、内田の音楽作品となるとすぐには思いつかないのがまたロケン・ロールな話ですwww🤭。しかし、彼にはこのフラワー・トラヴェリン・バンドがあります。内田は確かに大貢献しています。フラワー・トラヴェリン・バンドの前身はグループ・サウンズ時代の1957年に結成した内田裕也とザ・フラワーズです。当時、ヨーロッパに渡ってクリームやジミ・ヘンドリックスなどの最先端のロックに触れた内田がニュー・ロックを志して結成したバンドでした。フラワーズは、和製ジャニスと呼ばれた麻生レミをボーカルに迎えたバンドでしたけれど、彼女とスティール・ギターを担当していた小林勝彦が米国武者修行の旅に出るために脱退したことでメンバー再編を余儀なくされました。フラワー・トラヴェリン・バンド、FTBの誕生です。結局、内田はプロデュースに専念することとし、ボーカルには後に「人間の証明」で一世を風靡するジョー山中、ギターにはグループサウンズのザ・ビーバーズ出身の石間秀樹、ドラムに和田丈二、ベースにこれまたGS出身の上月潤の四人組でFTBがスタートしました。内田の目論見はとにかく世界に通用するバンドを作るのだ。ということであり、そのための改名でもありました。演奏も当時ロック界に革命を起こしつつあったレッド・ツェッペリンやキング・クリムゾンなどのカバーを中心に据えており、最初から土俵は世界でした。~続⤵️
FTBの転機となったのは1970年の大阪万博です。そこでライヴ・イベントに参加したFTBは、同じイベントに参加するために来日していたカナダのライトハウスなるロック・バンドと意気投合します。それをきっかけにFTBはカナダに渡ることになったのでした。FTBのデビュー作はカナダにわたる前に発表されましたが、カバー中心であったことから、カナダ土産には不足と感じたのか、出発前にわずか2日で本作品「サトリ」が制作されました。石間のギター・リフを中心に即興的に仕上げた作品です。石間は当時インドに入れ込んでいたそうです。ジャケットの内側にあるメンバー写真では石間はインドの弦楽器ヴィーナを抱えて座っています。それのみならず、そこに描かれている絵にはインドの神様やタジ・マハールなどを配したインド曼荼羅となっています。ことさらにインドっぽくしているわけではありませんけど、サウンド全体にそこはかとなく漂うオリエンタルな空気がFTBの個性となっています。この風合いが、四人組による堂々たるギター主体のロック・サウンドに加わることで圧倒的な迫力を生んでいます。本作品はアメリカのアトランティック・レコードから発表されています。公式サイトはこれを「日本のオリジナルロックが初めて世界のロックカルチャーに名乗りを上げた歴史的瞬間」としています。さらにシングル「サトリ・パート2」はカナダでトップテン入りしています。画期的な日本のロックに関する本を書いたジュリアン・コープは本作品を日本のロックのナンバーワンにあげています。大ヒットとは言えませんけれど、世界を相手に生み出された圧倒的なクオリティの作品であることは間違いありません。凄いアルバムですホント。。
Satori / Flower Travellin' Band (1971 Atlantic)
追記;ちなみにジェフ・ベックの記事で少々触れましたが、自分史上初の野外フェス参戦が「ワールド・ロック・フェスティバル・イーストランド」(後楽園球場)でした。参考まで…

※参照
ヴァン・モリソン ムーン ダンス (2015―11)
「アストラル・ウィークス」から1年半で、またまた大傑作が誕生しました。と、今なら言えるわけですが、当時は前作はチャートインすらしていませんし、この作品も売れはしたものの、爆発的というわけではありませんでした。しかし、今や両作品ともにロック史上に残る名盤をリストする際には欠かせない作品になっています。確かにどちらも渾身の傑作です。ヴァン・モリソンはこの2作だけしか発表しなかったとしてもロック史に残ったことでしょう。ヴァン・モリソンは、前作があまりに売れなかったことから、少しは普通の形式の楽曲を作ることにしたようです。さらに、今回はメレンスタインがエクゼキュティヴ・プロデューサーにまわり、ヴァン自身がプロデューサーも務めています。当時、ヴァンは妻とともにウッドストックの片田舎で静かな暮らしを始めたばかりでした。当時のウッドストックはミュージシャンの交流が盛んな土地でしたから、ザ・バンドなどの渋いところとの交流も彼には刺激的だったことでしょう。バックを固めるミュージシャンは前作とはまるで入れ替わっています。地味なミュージシャンばかりですけれども、それぞれ腕は確かです。むしろ、ヴァンとの演奏をきっかけに活躍の幅を広げていった者も多いです。この人達が実にコクのある演奏を聴かせてくれます。 ~続⤵️
ヴァン・モリソンの「ジャジーでヒップ、そしてブルージーな」、「ある種の極みに到達したという印象を受ける」圧巻ボーカルとの見事に融合していて、最高です。ニュアンスに富んでいて、力強い。本当に素晴らしい。アルバムは冒頭の「ストーンド・ミー」から「ムーンダンス」、「クレイジー・ラヴ」、「キャラヴァン」、「イントゥ・ザ・ミスティック」と超名曲が並んでいきます。アナログではA面を構成するこの5曲はいずれ劣らぬ名曲で、これだけ並ぶのはロック史の中でも珍しい。「ムーンダンス」はジャズっぽい曲ですけれども、前作とは全く異なり、とても親しみやすいメロディーをもった曲です。「クレイジー・ラヴ」は至高のラヴ・ソングで、数多くのミュージシャンがカバーしています。ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」でヴァンが「キャラヴァン」を熱唱していた姿が脳裏に深く刻まれています。こぶしを振り上げ、足を蹴り上げて歌うヴァン・モリソンはカッコいいというのとはちょっと違う男くささに溢れていました。B面はやや旗色が悪いのですが、それでも水準以上の普通にいい曲が並んでいます。ヴァン・モリソンは、この時、まだ24歳です。そのアーシーでソウルフルなボーカルは貫禄十分ですが、まだまだ若々しさを湛えています。どんな歌を歌っても凄いんです。ほぼ完璧なアルバムでしょう。前作のような神々しさはありませんが、「R&Bとジャズ、フォーク、トラッドが見事に融合した」、より我々衆生に近い作品です。見事なまでの完成度を誇るモリソン畢生の傑作です。
Moondane / Van Morrison (1970 Warner)
ヴァン・モリソン アストラル・ウィークス (2015―11)
💿️Astral Weeks Full Album - YouTube
「アストラル・ウィークス」のことは扱い兼ねてしまいます。ロック界で一二を争うボーカリスト、ヴァン・ザ・マン、男ヴァン・モリソンの実質的なソロ・デビュー・アルバムは全然ロックではありません。では何かと問われると答えられない。出来上がった作品を聴いたレコード会社の皆さんが「ただ首を横に振るばかりだった」という気持ちもよく分かります。ゴールド・アルバムに認定されるまで33年かかったそうですし。自分も30歳を過ぎてから、初めてこのアルバムの凄さが分かるようになりました。ヴァン・モリソンはゼムでの成功後、米国に渡ってしばらくの間は「ブラウン・アイド・ガール」の大ヒットはあったものの、レーベル側ともめて不幸な時期を過ごしました。レーベルをワーナー・ブラザーズに移籍して心機一転取り組んだのがこの傑作です。そういう出自を考えると、ポップな作品を意地でもやらないぞという決意も分かります。「浮世離れした」と言われる音楽に取り組んだ彼は、その音楽を理解するいいプロデューサーに出会います。ルイス・メレンスタインです。彼はトム・ウィルソンの弟子らしいです。またトム・ウィルソンです。この頃の新しい音楽には常にトムの影が見えます。それはともかく、ルイスはベースのリチャード・デイヴィスをリーダーに、MJQのドラマー、コニー・ケイを始めとする名うてのジャズマンを集めました。リチャードはエリック・ドルフィーやケニー・バレルなどをサポートしてきた人です。他の面々も共演してきたのはジャズ・ジャイアンツばかりです。~続⤵️
そんなバンドをバックにモリソンが歌うわけですから、ロックと呼べるものにはなりません。リチャードは「僕たちは彼の歌を一度聞いただけで演奏を始めていた」と述懐しています。モリソンは、こんな人たちと一緒にやるのだからと、バンドの面々の自発性に完全に任せたようで、「あんまりコミュニケーションはなかった」そうです。テイクは重ねられていますが、セッションは短期間に終わっています。見事なまでに一貫した姿勢です。そうして、バンドとモリソンのインタープレイが徹底的に尊重された作品が仕上がったわけです。力強いモリソンのボーカルは、繊細極まりないテクスチャーを持ったジャジーなサウンドとこの上なく固く結びついています。こんな音楽はそれまで聴いたことがありませんでしたし、それからも聴いたことがありません。唯一無二のサウンドです。一言で言えば神々しい。ヴァン・モリソンの姿に救世主が二重写しになって見えてきます。米国の評論家で唯一日本で名前が売れていたグリール・マーカスは、モリソンが捉えているものとして、「人生に対する許しの素振り」と書いています。救世主そのものです。このアルバムは自分の中で特異な位置にあります。「R&B、ブルースをベースに」しているのでしょうけども、ロックでもジャズでもブルースでもない。アイルランドを探索すれば何かが分かるかもしれないと思うのですが、未だ果たせずにいます。
Astral Weeks / Van Morrison (1968 Warner)
聖飢魔II WORST~聖飢魔II極悪集大成教典(ベスト)(2025―8)
💿️The End Of The Century - YouTube
地球征服を企図して地獄からやってきた悪魔達が結成したバンド、聖飢魔Ⅱの第六大教典「WORST~聖飢魔Ⅱ極悪集大成教典(ベスト)~」です。発表されたのは魔暦紀元前10年9月のことです。人類が使う西暦に換算すると1989年のことです。聖飢魔Ⅱはもともと早稲田大学の学生たちによるバンドです。この頃の早稲田にはサンプラザ中野も居たといいますから、ほぼ同世代としては何だかとても羨ましいです。その聖飢魔Ⅱは悪魔に似合わずレコード会社のオーディションからデビューに至っています。当初から自らを悪魔と称するコンセプトはしっかり固められていたようで、デビュー当時から今に至るまで一貫して悪魔を自称し、その異世界はどんどん広がっています。聖飢魔Ⅱのウィキペディアを覗くとよく分かります。編集者も楽しそうで何よりです。その世界は小倉優子のコリン星のようなものだと思うと大間違いです。もはやラヴクラフトのクトゥルフ神話の世界のような面持ちすらあります。しばしば揶揄されていましたけども、何事も貫くことが大切です。今や聖飢魔Ⅱが悪魔であることを笑う人などいないでしょう。本作品はいわゆるベスト・アルバムです。デビューしてから3年で5枚のアルバムを発表しており、かなりのハイペースですけど、バンドはさらに新作を制作しようとします。しかし、なかなか制作の雰囲気にならず、それならとベスト・アルバムが企画されたそうです。~続⤵️
とはいえ、これは普通のベスト・アルバムではありません。既発曲はほぼ全曲が新録音ないしリミックスされており、しっかりと手が加えられています。リミックスはニューヨークで現地のエンジニアを使って行われているといいますから贅沢です。これまでのアルバムから比較的万遍なく選曲されており、「蝋人形の館」や「アダムの林檎」などのシングル曲も1曲を除いてすべて収録されています。アルバムに先行する形で発表された「白い奇蹟」ももちろん収録されていますし、とても丁寧な仕様であることが分かります。アルバムは代表曲である「悪魔組曲作品666番ニ短調」から「序曲:心の叫び」で始まり、続けて「エンド・オブ・ザ・センチュリー」、聖飢魔Ⅱの海外でのステージネームを冠した曲がくるところなども、自己紹介アルバムとしては大変親切です。聖飢魔Ⅱはヘヴィメタル・バンドとして一般に認識されており、実際その通りのサウンドが展開されています。同時代にはNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)勢がいて、聖飢魔Ⅱはこれに呼応しているように思います。堂々たるヘヴィメタル・スタイルです。一方で、個人的にはカラオケで撃沈した「白い奇蹟」に見られるように歌謡曲スタイルのバラードもあり、ジャズっぽいアレンジの曲もありと意外にその音楽性は幅広いです。演奏力が高いゆえにできることです。強烈なキャラ設定だからと際物扱いしてはいけません。本作品はヘヴィメタル史上初めてオリコンチャートを制するヒットになりました。また「白い奇蹟」を引っ提げて、これまたメタル史上初の快挙となる紅白歌合戦出場を果たしました。悪魔が紅白のステージに降臨したというのもいろいろな意味で楽しい出来事でした。。
Worst / End of the Century (1989 CBSソニー)
井上陽水 氷の世界 (2013―9)
日本レコード史上初のミリオン・セラーです。2年連続で年間1位は驚異です。73年当時からLPレコードの値段はさほど変化はなく、一方で所得は倍以上になっています。まだまだ高価なアイテムでしたから、100万枚なんて夢のような数字でした。しかし、井上陽水を含め、当時のフォーク歌手はテレビに出演しませんでしたから、テレビを主要な情報源としていた自分などにはどこか遠い世界の出来事でした。実は、今回、調べてみて初めて知って驚きました。70年代初めのフォーク・ブームは個人的にはほとんど不感症でしたけど、井上陽水さんだけは妙に気になっていました。当時、あまりラジオを聴かない時期もあってフォーク情報がまるでなかったんですが、友だちがギターを弾きながら歌うのを聴かされたことも含めて、少しは聞こえてきていました。その中で、この声です。何と言ってもこの声。気にならないわけがありません。一度聴けば耳から離れない。凄い声です。その後、長い年月の間に彼らも丸くなったのか、テレビが権威主義から少しは脱却したのか、テレビで歌ったり、タモリさんと遊ぶ陽水さんの姿が見られるようになりました。昔、思っていたのとはまるで違う脱力キャラには驚きました。そういう後付けの知恵も身にまといながら、改めてこのアルバムを振り返ると、いろいろな発見があります。~続⤵️
アレンジは本格派グループサウンズのモップスにいた星勝。彼に加えて、楽曲の共作者には、忌野清志郎、小椋佳、漫画家の長谷邦夫がクレジットされています。参加ミュージシャンには、深町純、細野晴臣、高中正義、村上秀一といった日本のロック作品には誰か一人は必ず含まれているだろうというような人々に加えて、ロンドンで録音がされた曲もあって、そこにはジョン・グスタフソン、アン・オデルといったロキシー・ミュージック周辺の人々が参加しています。この声があれば、アコギ一本でもいいのではないかと思わせますけど、そこは結構豪華なアレンジがなされていて、気合の入り具合が分かろうというものです。これは陽水さん3枚目のアルバムになるわけですけど、シングル「夢の中へ」がヒットしたこともあり、アルバムの大ヒットが期待されていたのでしょう。そのわりには「夢の中へ」は入っていませんが。ここで聴かれる曲は、四畳半フォーク的な叙情に満ちた側面もありますし、内省的な詩の世界でもあるんですが、この人の場合は、どこか開かれたところがあります。胸のなかを覗いてみたらば、茫洋と広がる海が見えたような感じがします。一押しは、やはり大ヒットした「心もよう」です。信じられないくらいいい曲です。放り出されたような歌詞の終わり方といい、朗々とした艶のある声といい、本当に見事なものです。日本初のミリオン・セラーは伊達じゃありません。天賦の声がまぶしすぎる名作だと思います。
氷の世界 / 井上陽水 (1973 ポリドール)
井上陽水 ユナイテッド・カバー2 (2015―7)
日本のポップス界でもカバー・アルバムがすっかり定着しました。歌番組でも自分の最新ヒット曲を歌うだけという構成の番組が少なくなり、他の歌手の曲を歌う光景をよく見かけます。これを日本のポップスもスタンダード化してきたとして歓迎する意見が聞かれます。確かにそういう側面はあると思います。大勢でカラオケに行って大いに盛り上がると、最後は大合唱になるものですが、世代が離れていると一緒に歌える歌がないことに気づきます。結局、文部省唱歌が最大公約数だったりしますから。これは昔からある歌の中で、若い人もよく知っている歌が少ないということです。聴かせる努力が必要です。その点、昔の人は偉かった。自分の世代だと軍歌を少しだけ歌えます。よく聴かされたからです。今は音楽の教科書に日本のロックやフォークが載っているそうですから大きな一歩です。「少年時代」というスタンダードに最も近い楽曲を作った井上陽水がカバー曲集を出していることはさらに大きな一歩でしょう。この第二集は第一集から14年もの歳月を隔てての登場です。思えば彼がカバーの先駆けでした。第一集は徳永英明の「ヴォーカリスト」シリーズよりも前のことでしたから。カバーが定着してからの第二集ということになります。今回は全11曲のカバー曲に加えて、新曲が2曲。この新曲はNHKの「ブラタモリ」のテーマ曲で、井上陽水の本領発揮トラックですが、生真面目にボーナス・トラック扱いとなっています。わざわざそんなこと言わなくてもいいのに。。~続⤵️
カバー曲の中で、最も大きな話題になったのは、再録ですが「SAKURAドロップス」でしょう。娘ほど歳の離れた宇多田ヒカルのカバーです。これは逆に年寄りにも宇多田を聴かせようという試みかもしれません。個人的には、思い出深いユーミンの「リフレインが叫んでる」がツボでした。ユーミンでなくてもこの曲は素晴らしいということがよく分かりました。オリジナルと比べてしまわないというのがスタンダードたる所以ですから、このスタンダード化は成功です。全13曲中、6曲はオルケスタ・デ・ラ・ルスがバックを務めています。それも宇多田の曲を始め、吉田拓郎の「リンゴ」だとか、セルフ・カバーでも「氷の世界」だとか意表をついたラテン化です。見事なラテン仕様で、これが曲に色気を付けていて、とてもよいです。井上陽水の声は老人の声です。相変わらずの美声ですけども、若い頃のどこまでも届いていくような艶っぽい声とはかなり違っています。しかし、そこは陽水、老人ならではの素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。ラテンのりと合わせてキューバのブエナ・ビスタを思わせます。も一つ老人ならではの若い人押しも特筆すべきです。自分はこのアルバムを聴いて、コーラスのLynと澤田かおりの作品を聴いてみたくなりました。それぞれのコーラスが絶妙です。井上陽水プロデューサーの最大の成果かもしれません。
United Cover 2 / Yosui Inoue (2015 Zen Music)
マイケル・ジャクソン デンジャラス (2015ー6)


💿️Michael Jackson Dangerous FULL ALBUM HD - YouTube
マイケル・ジャクソンがキング・オブ・ポップと呼ばれるようになったのはいつからなのか定かではありませんが、自分などはまずこのジャケットを思い浮かべます。マイケル戴冠!見れば見るほど尋常じゃないジャケットですけど、「世界中が待ち焦がれていた。前作『BAD』から4年と3か月、今世紀最後のスーパースターが伝説の新たなる扉を開く!」。確かに世間が待ちわびていたアルバムです。寡作なマイケルではあるものの、さすがに4年と3か月は長かった。しかし、さすがはマイケルです。発売されるやわずか6週間で1000万枚を売り上げたと言いますから凄い。しかも20か国で1位。マイケルの場合、欧米だけではなく世界中で売れますからその瞬発力たるや恐ろしいものがあります。ところが驚きはその内容にありました。大人になって以来、二人三脚で歩んできたクインシー・ジョーンズの手を離れ、当時、まだ23歳だったニュー・ジャック・スウィング男テディ・ライリーと組んで作られたアルバムはかなり先鋭的な内容を含んでいました。ただし、ライリーがプロデュースに係わっているのはちょうど半分の7曲です。アルバムはもともとクインシー人脈のビル・ボットレルとブルース・スウェディエン他と制作が進んでいたため、その二人がプロデュースに係わっている曲が残りの半分を占めています。このアルバムがヒットして一般に話題となったのはかつてのマイケルの延長上にあるライリー以外の曲の方でした。シングル・カットされて全米1位になった「ブラック・オア・ホワイト」や、「ウィ・アー・ザ・ワールド」の延長にある「ヒール・ザ・ワールド」などです。~続⤵️
マイケルの人類に向けたメッセージは圧倒的に正しく、お花畑と揶揄する人もいるでしょうが、マイケルほどのスーパースターになれば、この正しさが大いなる説得力を持ちます。こんなに直截なメッセージが沁みてくるのはマイケルならではです。ライリーがらみの曲で最も話題になったのは「イン・ザ・クロゼット」です。MVではスーパーモデルのナオミ・キャンベルとからむことで、マイケルの歴史に新たな一ページが刻まれました。なお、アルバムではモナコのステファニー王女が語っていたというのがまた凄いです。それにしてもライリーとの共作は「ジャム」を始めなんとも凄みがあります。1980年代を制覇したマイケルが1990年代も先頭を切って走るのだと宣言しているかのようです。ライリーが関わったことで生まれた先鋭的なビートは当時としては相当な冒険です。アルバムはCDの収録時間を目いっぱい使っていますから、中にはガンズのスラッシュがギターを弾きまくっていたり、プリンスのような曲があったり、ベートーベンの第九が出てきたりと幅も広いです。しかし、それらの曲に対してもライリーとのコラボが影響を与えています。マイケルはその地位を利用して本作品に10億円以上の制作費をかけていますが、音楽の内容に関しては地位に安住するのではなく、最前線に出て戦う姿勢を鮮明にしています。誤解されやすい人ですけれども、さすがに世界のスーパースターは違います。凄い作品です。
Dangerous / Michael Jackson (1991 Epic)
ジョン・ケージ (2011―8)
現代音楽の巨匠ジョン・ケージの作品集です。ロックやジャズを聴きなれた耳にも聴きやすい作品ばかりが並んでいます。最大の注目は超問題作「4分33秒」でしょう。この曲は一応ピアノ曲ですが、演奏者は4分33秒間ピアノの前に座っているだけで、音は一切出しません。馬鹿にしているのかと怒る人もいるかもしれませんが、相手は現代最高の哲学者でもある偉人なので怒る方が分が悪いです。ある評論で言われていたのは、この曲は音楽の既成概念を破壊するための曲なので、発表と同時に使命を終えたということでした。演奏されることを想定していないと言いきられていました。しかし、こういうことを言う人は真面目にこの曲を聴いたことがない人です。この曲は体験するためにあります。皆さんも耳を傾けてみてください。その際、音楽とは何かとか、ケージの思想の奥義を究めようとか、そういう芸術モードで聴かない方がいいと思います。「本当はピアニストはいないのではないか」とか、「実は何も録音されていないのではないか」とか下世話な気持で聴いた方がいいです。その方が真剣になれますし。実際、この曲は3つの楽章からなっていて、このCDでは楽章間に演奏者の衣擦れの音とピアノの蓋を開閉する音が聴こえます。お茶目な仕掛けですね。ビデオはオーケストラ・バージョンです。賞をとったビデオということで掲げてみました。
自分も初めて聴いた時のことを忘れません。まず、曲の途中から自分の呼吸の音が凄く気になりだしました。やがて、心臓の鼓動の音が聴こえてくるようになったと思うと、突然、まわりの環境音が堰を切ったように押し寄せてきました。普段は全く聴こえないと思っていた遠くを走る高速道路の車の音が中心でした。この世は音に満ちている、そんなことに覚醒した不思議な体験でした。初演の時は、聴衆全員に一斉に雨の音が聴こえ出したそうです。降り始めたわけではありません。聴覚が解放されるということでしょうか。この体験以降、身の回りの音に敏感になりましたし、楽しめるようになりました。この曲は何度でも体験可能です。こちらの体調にも大きく左右されますし。一曲に力を注ぎすぎました。もう一曲紹介したいのは、「マルセル・デュシャンのための音楽」です。こちらは弦の間に異物を挟むプリペアード・ピアノの作品です。この曲は、ハンス・リヒターの「金で買える夢」という映像作品のために作られました。この映画は、夢を売る男の話で7つの夢のシーンが出てきますが、それぞれ有名な芸術家が制作しています。フェルナン・レジェ、マックス・エルンスト、マン・レイ、マルセル・デュシャン、アレクサンダー・カルダーです。教科書級でしょ。そのデュシャンのシークエンスの背景にこの曲が流れます。有名な「階段を下りる裸婦」の実写版も出てきます。そのほかの曲はラジオのコラージュやおもちゃのピアノのための作品、言葉遊びのボーカル・パフォーンマンスと、誰もが思いつくもののケージでなければ作品にできないものばかり。大変面白いCDです。お勧めです。
※参考:マルセル・デュシャンとは?「観念としての芸術」代表作を5分で解説 | NEW ART STYLE

🎦
🎦

🎦
💿️🎦
🎦
💿️
🎦
🎦
💿️


🎦
💿️
🎦
💿️
💿️
🎦
💿️
🎦
🎦
🎦
🎦
🎦
🎦