ジャケットに写っているのはイギリスの炭鉱町シェフィールドのボタ山に残されたモニュメントです。小便を引っかける以外に何の用途もない建造物、日本流に言えばトマソンです。そのモニュメントに敬意を表してメンバー全員がオシッコしています。「『次は誰』がするの??╰U╯🙄」というのがジャケットから想像されるアルバム・タイトルの意味づけです。ザ・フーの命名センスは侮りがたいです。このモニュメントには中途で投げ出されたプロジェクト「ライフハウス」の姿も投影されているものと思います。前作「トミー」で高い評価を得たピート・タウンゼンドは、最初から映像も伴ったロック・オペラ作品を企画します。それが「ライフハウス」です。しかし、「マトモな意思疎通能力が欠けていた」ピートは結局このプロジェクトを断念してしまいます。しかし、残された楽曲群のうちのいくつかはここにこうしてアルバムにまとめられて発表されました。それがこの「フーズ・ネクスト」です。プロジェクトの遂行にこだわるピートは2枚組アルバムを主張しますが、外部プロデューサーに起用されたグリン・ジョンズが反対します。ジョンズは、曲を並べても物語になっておらず、聴き手には全くそのコンセプトが伝わらないと判断して、曲を寄せ集めたシングル・アルバムとすることとしました。さすがのピートも反論できなかったようです。こういう時には得てして傑作が誕生するものです。
🎦The Who - Baba O'riley (live Keith Moon) - YouTube
この作品はしばしばザ・フーの最高傑作とされています。アルバムはタイトにまとまっており、極めてロック的な演奏が繰り広げられます。ライブ・バンドとしてのザ・フーとコンセプト先行のザ・フーが絶妙にバランスしています。冒頭の「ババ・オライリー」と最後の「無法の世界」の2曲がとりわけ有名です。「マイ・ジェネレイション」に代わる、中期のザ・フーの代表曲として、親しまれている楽曲です。特に後者はシングル・カットもされてトップ10ヒットとなっています。この2曲で特筆すべきはシンセサイザーの使い方です。時はまだ1971年ですから、シンセが一般的に使われ始めた頃です。鍵盤楽器としてメロディー中心に使用されていたシンセにリズム楽器としての可能性を発見したロック作品として後世に残るものとなりました。「ババ・オライリー」の題名は、ピートが師事していたインドの精神指導者ミア・ババと、現代音楽のテリー・ライリーの名前から取られています。件のシンセの使い方はライリーのミニマル・ミュージックからの影響と思われます。後の世代に与えた影響は大きいです。もちろんザ・フーはシンセ・バンドなどではありません。ここにはブリティッシュ・ハード・ロックのスーパースターとして、力強いリズムに強力なボーカルとギターが被さる典型的なハード・ロック・サウンドが横溢しています。ザ・フーの楽曲の形はここに完成を見ています。中途半端に文学的なコンセプトにこだわらずにサウンドで勝負することを選んだグリン・ジョンズの慧眼が光ります。この作品がなければザ・フーのディスコグラフィーは何とも不完全なものになったことでしょう。