ジョン・レノンには失われた週末と呼ばれた時期があります。オノ・ヨーコと別居していた1973年秋から1975年初頭に至る1年半の時期です。「ヌートピア宣言」はそのごく初期の作品でしたが、本作品は真っ只中の作品となります。前作では情けないほど弱弱しかったジョンですけれども、失われた週末も時間が経つに従って、躁状態とでも言うのでしょうか、友人を集めて乱痴気騒ぎをするようになります。とても分かりやすい展開です。しかし、いつまでもそんな状態を続けるわけにはいきません。つるんでいたポップ歌手ニルソンの声が出なくなったことをきっかけに正気に戻ったジョンは、リーダーシップを発揮してリハビリのためのレコーディングを企画します。まずはニルソンのソロ。次いでようやく自身の新作に取りかかります。乱痴気騒ぎ仲間だったベースのクラウス・フォアマンやタジ・マハールと共演後ソロで活躍していたギタリストのジェシ・エド・デイヴィスにくわえ、ジム・ケルトナーやニッキー・ホプキンスなどお馴染みのメンバーが集まりました。さらに、前作にも参加していたセッション・ミュージシャンのケン・アッシャーやパーカッションの切れ味鋭いアーサー・ジェンキンス、ギターのエディ・モットー、ストーンズでもお馴染みのボビー・キースを筆頭とするホーン陣、リトル・ビッグ・ホーンズの参加が目を惹きます。
🎦John Lennon & Elton John - Whatever Gets You Thru The Night (Live MSG 1974) - YouTube
ジャケットは子どもの頃に描いた絵を使っています。これを見ると、またセラピーかと構えてしまいますが、ここではダメ男から立ち直りつつある力強いジョンの姿が見られます。特にホーンの多様がマッチョ感をかもし出しています。そのかいもあって、本作からは「真夜中を突っ走れ」がソロ・シングル初の全米1位ヒットを記録します。この曲にはエルトン・ジョンがゲスト参加していて、ジョンはヒットすると思わなかったようですが、エルトンは1位を確信していたそうです。この当時のエルトンはそれこそ往時のビートルズを思わせるスーパースターぶりを発揮していました。そんな彼は無名時代にジョンに励まされたことを覚えていて、求めに快く応じ、さすがに勢いを感じさせる見事なボーカル・ハーモニーを披露しています。さらに不思議な霊体験を歌にした「夢の夢」も大ヒットして、アルバム自体も米国では1位を記録しました。英国では8位、日本では14位と今一つなのは、アルバムのマッチョな佇まいのせいでしょうか。「イマジン」のジョンとは少し様相が違う。ボートラに「愛の不毛」のアコギ弾き語りバージョンが収められています。これで通すという手はあったでしょう。そうすれば日本や英国で考えるジョンらしさが溢れたと思います。しかし、ここはバンドにこだわります。前作、前々作の一見さんとは違い今回は仲間たちです。本作品はジョンが強がってつくった作品だと言えるでしょう。相変わらず曲の完成度は高いですけど、ジョンにはヨーコの不在が重くのしかかっています。ジョンがはしゃげばはしゃぐほど居ない人の存在感がますます強まる妙なアルバムです。
Walls and Bridges / John Lennon (1974 Apple)