腕達者なセッション・ミュージシャンによって結成されたスタッフのセカンド・アルバム「モア・スタッフ」です。デビュー作「スタッフ」の1年後に発表された本作品はスタッフ・サウンドを確立したアルバムとして知られています。この評価にはやや疑問もありますが。というのも、デビュー作と滑らかに地続きだからです。スタッフ・サウンドが確立したというならば、すでにデビュー作で確立していました。新人ばかりのバンドでもあるまいし、スタッフのサウンドはレコード・デビュー前からしっかりと定まっていたと思います。それが証拠にデビュー作はゴールド・ディスクに輝いており、そのおかげもあってこの二作目が出来上がったと言われています。そして「モア・スタッフ」も見事にゴールド・ステータスを獲得しています。さらに本作品はグラミー賞にもノミネートされています。遅れてきた評価なのでしょう。やはり世間はスタッフのサウンドに虚を突かれたのかもしれません。既存のジャズの世界にもロックの世界にもぽそっと収まることのないサウンドは一般の音楽ファンには受け入れられたものの、専門家が得心するまで時間がかかりました。本作品もジャズ評論家の間では酷評されたとのことです。正統派のジャズからすればファンクやR&B、ポップに寄りすぎているということなのでしょう。要するに聴衆に媚びたと解釈したがる作風です。ジャズ評論家という人種は頑固なものです。
スタッフのデビュー作ではトミー・リピューマがプロデュースの一翼を担っていました。リピューマといえば同年のジョージ・ベンソン「ブリージン」で知られる有名プロデューサーですからスタッフのサウンドともごく自然に相性がよさそうなことが分かります。しかし、本作品のプロデュースにはディスコの大ヒット曲「ハッスル」で知られるヴァン・マッコイとチャールズ・キップスが関わっています。スタッフの面々は実際に「ハッスル」のシングル盤で演奏していますから、意外でも何でもないのですが、やはり意外です。さらに本作品中の「ラヴ・オブ・マイン」他ではキーボードのリチャード・ティーがしぶい声でボーカルを披露しています。そして、よりによってスティーヴィー・ワンダーの名曲「永遠の誓い」のカバーも収録されています。これもまた意外でもないはずですが、意外です。いちいち驚くのはセッション・ミュージシャンのバンドということで職人技を期待してしまうからなのでしょう。頑固な職人は我が道を行くものだという思い込みがスタッフのあっけらかんとした懐の深い音楽性を受け入れることを阻むのではないでしょうか。もともとゴードン・エドワースが言っていたように自然体で音楽を追求することがスタッフの持ち味です。ポップな曲もファンキーな曲もジャジーな曲も極上のグルーヴで我がものとするスタッフのサウンドには虚心坦懐に向き合うのが正解です。コーネル・デュプリー、エリック・ゲイル、ゴードン・エドワーズ、リチャード・ティー、スティーヴ・ガッド、クリストファー・パーカーの作り出すジャズ・ファンク・サウンドは本作品でも健在です。「モア・スタッフ」も「スタッフ」同様に本当に気持ちが良いサウンドです。
More Stuff / Stuff (1972 Warner Bros.)