montana_sf16’s diary

気まぐれではありますが「過去記事」を少しずつ掲載していきたいと思います。※アルバム紹介について。⇒ バンド名~アルバムタイトル~(掲載年月) ←この順番になっています。何かご覧になりたいもの等ございましたら受け付けますのでどうぞよろしくお願いいたします。🙇‍♂️

チック・コリア リターン・トゥ・フォーエバー (2017-4)

f:id:montana_sf16:20230612130132j:image💿️Chick Corea - Return to Forever (FULL ALBUM) - YouTube

まずはジャケットが素晴らしいです。ECMレーベルはジャケットのセンスの良さに定評がありますが、この作品はその中でも一、二を争う傑作です。このアルバムを語る時、真っ先に思い浮かぶのはこのジャケットです。アルバムを聴いたことがない人でも。同時代を知る中山康樹氏によれば、「このアルバムが日本で発売された1972年9月から数ヵ月間というもの、全国のジャズ喫茶では」「レコードのB面が何度も何度も流れ、一大ブームを巻き起こ」したそうです。日本のジャズ誌の定番スイング・ジャーナル主催のジャズ・ディスク大賞では金賞に輝いており、とにかく当時の日本では人気も評価も他を圧倒していたアルバムであったようです。その評価はチック・コリアに自信を与えることにもなりました。帯には、「鮮やかな変身を遂げたチック・コリアが描いた『天井の音楽』」であり、「爽やかなフュージョン・ミュージック」であると謳ってあります。いわゆるフュージョンを代表する作品であることは間違いありませんが、「鮮やかな変身」によるものだったんです。1970年に発表されたマイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」がエレクトリックなジャズをもたらすと、マイルス門下生たちがエレクトリックな道をさらに進め、フュージョンと呼ばれる音楽に到達します。その一人がチック・コリアでした。この作品はその走りとも言えるもので、「とてもはっきりと意識してもくろまれた音楽の計画だった」とチックは語っています。

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f:id:montana_sf16:20230612130232j:image f:id:montana_sf16:20230612130311j:image🎦Return To Forever - Crystal Silence - Molde Jazz Festival 1972 - YouTube

油井正一氏はライナーにてフリー・ジャズ・グループを経て到達したことが重要だと指摘します。ともかく、とても意識的な試みであったわけです。チックはフリー・ジャズを引き合いに「音楽的伝統を捨て去って自由なことをやろうという衝動は分かるが、彼らだってそういうものばかりに美の追求があると思っているわけではなく、レンブラントの古い絵を見て、美しいという感覚は持っている」と語っています。「私はフリーという言葉は、美しきものへの選択、美しきものへの追求を目的としていると解釈している」とも言っており、新しいフリーの探求がこのアルバムに結実したという道筋になります。何やらややこしいことになってきました。しかし、この作品は虚心坦懐に受け止めれば、実に爽やかで美しくて気持のよい音楽です。後にたくさんのフォロワーを生み出す音楽は、守旧派ジャズ・ファンからは「恐ろしくコマーシャルな音楽に手をつけた」と言われてもいるようです。チックのエレピ、スタンリー・クラークのベース、ジョー・ファレルのフルートとソプラノ・サックス、アイアート・モレイラフローラ・プリムのブラジル人夫婦によるドラムとボーカルによる親しみやすいサウンドは「ジャズというジャンルを超えて大きな支持を獲得しました」。3曲目などは中山氏曰く「新人時代の松田聖子が歌っても似合いそうな曲」です。ルールから解放されることがルールになってしまったフリー・ジャズから一歩踏み出し、ポップスさえも自在に取り込む真の自由が達成されたのかもしれません。

Return To Forever / Chick Corea (1972 ECM)

参照:「ジャズの名盤入門」中山康樹講談社