montana_sf16’s diary

気まぐれではありますが「過去記事」を少しずつ掲載していきたいと思います。※アルバム紹介について。⇒ バンド名~アルバムタイトル~(掲載年月) ←この順番になっています。何かご覧になりたいもの等ございましたら受け付けますのでどうぞよろしくお願いいたします。🙇‍♂️

トム・ヨーク ジ・イレイサー (2016―10)

f:id:montana_sf16:20231006072627j:image💿️The Eraser - YouTube

これまた突然に発表されたレディオヘッドのフロントマン、トム・ヨークのソロ・アルバムです。実際には二年前くらいから本格的に制作が始まっていますから、長いこと暖められてきた企画であることが分かります。唐突な発表はもはやレディオヘッドの定番ですし。超人気バンドの中心人物による初のソロ・アルバムですから、バンドの存続に不安がもたれるのは必然です。そのためか、トム・ヨークはインタビューの中で、不自然なほどに、バンド活動がいかに素晴らしいかを語っています。彼はこのアルバムを制作して「一番良かったのは自信を取り戻せたこと」だと語っています。「いかにメンバーと責任を分け合えることが大事か分かったし、凄く楽しい」ということで、「ひとりで仕事するミュージシャンは自滅的な職業だと思う」とまで言っています。どこか後ろめたい気持ちが残っているのではないかと思わせます。実際、別のインタビューでは、「一番大きな違いは、バンドとのかかわりがない」ことで、「発想も手法も出てくる音も全く新しかった。制作プロセスは、孤独でもあり、自由でもあった」と言っています。孤独とはいえ、この作品のプロデューサーはお馴染みのナイジェル・ゴッドリッチです。さまざまな機会に録音されていたサウンドを素材としてトラックを制作し、そこにトムのボーカルを乗せています。二人の共同作業的な色彩が強いわけです。~続⤵️

f:id:montana_sf16:20231006074734j:image f:id:montana_sf16:20231006074752j:image f:id:montana_sf16:20231006074831j:image f:id:montana_sf16:20231006074821j:image f:id:montana_sf16:20231006074806j:image f:id:montana_sf16:20231006074906j:image🎦Thom Yorke "Harrowdown Hill" - YouTube

サンプリングされたサウンドにはジョニー・グリーンウッドのピアノやら何やらも含まれています。そうした雑多な素材をナイジェルが取捨選択して、次第に曲にまとまっていった様子です。結果、エレクトロニックなサウンドが中心になっています。バンドのサウンドに比べると、随分とシンプルなサウンドです。音のレイヤーが一つ少ない気がします。しかし、その分、リズムの冒険などもとても直截です。ごつごつしたサウンドになっているように思います。トム自身はインストゥルメンタルでもよいと考えていたそうですが、ナイジェルはボーカルを入れることを主張しました。結果的にすべてのトラックにボーカルが入っていますが、その録音の仕方もシンプルです。生の声に近い。ジャケットはこれまたお馴染みのスタンリー・ドンウッドが手掛けています。今回は切り絵と紹介されていましたが、版画ではないかと思います。イングランド王クヌート1世の伝説をモチーフにロンドンの町が流される様が描かれています。この細かさがたまりません。こうしてみると、バンド・メンバーこそ直接に参加していませんが、プロデューサーもアートワークも同じ仲間が担当しており、結局、このソロがメンバー公認の祝福されたものであることを示しているようです。レディオヘッドの骨太なスケルトンともいえるサウンドは、これまた多くのファンを獲得し、チャート的にも評論家的にも大成功を収めたのでした。どこか留保のある態度を示しているトム・ヨークですが、この作品は恐らく大自信作なのでしょう。

The Eraser / Thom Yorke (2006 XL)

参照:iLOUD THOM YORKE インタビュー139号、オリコン・スタイル・トム・ヨーク・インタビュー