忌野清志郎が「虹を渡り銀河系遥か彼方へ」旅立ったのは2009年5月のことでした。ほぼ10年が経過しようとしていますが、生前と変わらない存在感を発揮し続けており、こうして新しい編集アルバムが発表されるに至りました。本作品は、通常のベスト・アルバムとは異なり、コマーシャルや映画、テレビとのタイアップ曲を時系列で並べたアルバムです。曲の発表時期ではなくて、タイアップされた時期に着目した時系列であるところが本作品の特徴です。そのため、最も新しいラスト4曲がRCサクセションの曲になっています。さらに絶妙の位置に「スローバラード」や「たとえばこんなラヴ・ソング」というRCクラシックスが現れたりして、聴いているこちらの耳がぴくっとなります。偶然とはいえ面白いです。最初の1曲は「こんなんなっちゃった」です。ミノルタのCMとタイアップしたのは1981年のことで、アルバムとしては1982年の「BEST POPS 」収録です。RCサクセションのデビューは1970年ですから、デビュー10年を経て初のタイアップでした。意外だったのは2曲目に「い・け・な・いルージュマジック」が出てくることです。坂本龍一と組んだ楽曲で資生堂のキャンペーンに使われ、チャート1位を獲得しました。
苦節10年を経てRCの名前が人口に膾炙するようになった矢先、この曲で清志郎の人気が爆発しました。何となくもっと後のことかと思ってました。とはいえ、既にこの時からベテラン感が漂ってましたから。いずれにせよ、ここからは怒涛の快進撃です。ワンフレーズだけで視聴者に強い印象を残すことができる清志郎です。これほどタイアップに向いている人も珍しいですが。「デイ・ドリーム・ビリーバー」に至っては20年以上の間に3回もCMに起用される人気ぶり。聴き慣れた楽曲も清志郎が歌うことで、オルタナティブな魅力を発揮することができるので、商品の安心感と斬新感を一挙に表現できる。格好の素材です。しかし、聴き進めていくと、どうしたってしょうがないことなのですが、新曲が途切れてしまいます。タイアップは2009年以降も続き、ここには7曲も収録されています。未だに人気は衰えないわけですけど、新曲はもうありえないという事実が改めて悲しいです…😢 ここにはRCのみならず、タイマーズや2・3’s、ジョニー・ルイス&チャーとのユニットによる曲、「ちびまる子ちゃん」のエンディング・テーマや糸井重里の「パパの歌」など、清志郎の全キャリアに及ぶ選曲が図らずも達成されており、しみじみと軌跡を振り返ることができます。注目したいのはスティーヴ・クロッパーがプロデュースした2曲。「メンフィス」所収の「雪どけ」ではオーティス・レディングの姿を重ねることができるボーカルですし、最後のスタジオ作「夢助」の「誇り高く生きよう」は歌声に鬼気が迫っています。どんな歌を歌っても清志郎は言葉がきちんと聴き取れます。独特の溶けるようなボーカルでも言葉は明瞭。そこもタイアップ向きです。2枚組2時間半を聴き通すと、忌野清志郎の存在の大きさを思い知らされます。まさに不世出の大ボーカリストでした。
Best Hit Kiyoshiro / Imawano Kiyoshiro (2018 ユニバーサル)