カンサスはアメリカのプログレッシブ・ロック・バンドです。プログレはヨーロッパの専売特許だと思われていましたが、1970年代半ばにはアメリカにもプログレを標榜するバンドが誕生し、アメリカン・ロックの「ニュー・ウェイブ」となりました。本作品発表時に書かれた伊藤政則氏のライナーには、ニュー・ウェイブの15バンドが羅列してあります。しかし、その中で名が知れているのはスティックスとボストン、そしてカンサス、頑張ってパブロフズ・ドッグくらいのものでしょう。ニュー・ウェイブという言葉自体すでに残っていませんから、この動きはほぼ不発でした。「プログレ不毛の地」アメリカには、やっぱりプログレは根付きませんでした。ボストンとスティックスはプログレとは言えませんから、結局 一人、気を吐いたのはカンサスです。この作品は、カンサスの出世作となった4作目です。映画の主題歌に起用されたこともあって、カンサス初のシングル・ヒットとなった「伝承」に引っ張られるように、アルバムはじわじわとチャートを上昇し、結果的に半年かけて全米5位を獲得、400万枚を超える大ヒットです。「ロックは遂にここまで来てしまった!知的な感性と、驚異のテクニックが、クラシックをベースに織りなす衝撃のサウンド!」はアメリカ人の懐をえぐったわけです。しかし、面白いことにプログレの本家とも言える英国ではまるで無視されています。😢💧
🎦Kansas - Carry on Wayward Son (Official Video) - YouTube
カンサスは、英国のプログレに衝撃を受けたそうで、彼らの音楽は確かにプログレを標榜していました。クラシックの素養十分なロビイ・スタインハートのバイオリンに加え、ボーカルのスティーヴ・ウォルシュと曲作り担当のケリー・リブグレンはシンセも弾いています。つまりプログレ要素満載です。さらに、本作の最後の曲は「超大作」と名付けられた組曲形式です。歌詞も歌詞ですし、彼らがいかに真剣にプログレを標榜していたかが分かろ-というものです。コーラス・ワークまでちゃんとあります。しかし、これは諸刃の剣で、プログレにはプログレ道というものがあって、ちょっとの隙も見逃してはくれません。英国の5大プログレ・バンドをベンチマークとして、カンサスのサウンドはプログレ道何段に位置づけられるか議論されていきます。そうなると、根が明るいアメリカン・ロックはどうしても分が悪いです。ジェネシスやイエス系のサウンドではありますけれど、カンサスのサウンドには笑顔が溢れています。まずシリアスさが足りない。⇒ 減点1。「超大作」は組曲なのに8分しかない。⇒ 減点2。しかし、本作品は、ポップでハードな通常のアメリカン・ロックの文脈で愛でていた人が大半なのではないでしょうか。私"もん"も「伝承」のころころ転がるメロディーなど大好きですし、それぞれの曲がキャッチーにまとまっていて、この当時のアメリカン・ロックの底力を感じます。この後、本人たちもプログレのレッテルには嫌気が差してしまうことになります。身から出た錆とはいえ、何だか不幸な話です。この作品は何と言ってもストレートに70年代アメリカン・ロックの一つの形として楽しむことができる、言わばカンサスの会心作なのに。😔
Leftoverture / Kansas (1976 Epic)