montana_sf16’s diary

気まぐれではありますが「過去記事」を少しずつ掲載していきたいと思います。※アルバム紹介について。⇒ バンド名~アルバムタイトル~(掲載年月) ←この順番になっています。何かご覧になりたいもの等ございましたら受け付けますのでどうぞよろしくお願いいたします。🙇‍♂️

アントニオ・カルロス・ジョビン 波 (2018―3)

f:id:montana_sf16:20230124230108j:image💿️Antônio Carlos Jobim - Wave (Full Album) - YouTube

一見、素晴らしく説得力のあるジャケットです。黄昏ないし薄明の似合うボサノヴァの世界を写真で表現して秀逸です。しかし、ご案内の通り、ブラジルにキリンはいません。収録曲のタイトルとなった「モハべ砂漠」にもキリンはいません。危うく騙されるところでした。ボサノヴァの帝王と呼ばれる、ボサノヴァ創設者の一人アントニオ・カルロス・ジョビンが、名プロデューサー、クリード・テイラーのレーベルCTIに残した傑作がこの「波」です。1967年、ジョビン40歳の作品です。ジョビンやジョアン・ジルベルトなどがボサノヴァを生み出したのは1950年代後半のことでした。それから約10年、ジョアン・ジルベルトスタン・ゲッツの共作「ゲッツ/ジルベルト」収録のジョビン作「イパネマの娘」の世界的ヒットでボサノヴァ世界の音楽になりました。ジョビンはこの年フランク・シナトラと「イパネマの娘」をデュエットして、アメリカでも大いに評価されています。その勢いで、あまりブラジルを出ないジョビンをアメリカに招いて制作されたのがこのアルバムです。ジョビン作品の中でも一二を争う人気盤です。アレンジを担当したのはクラウス・オガーマンです。彼は20世紀最大の編曲家の一人とされ、この頃はテイラーのもとで、ジャズを中心に数多くのアーティストの作品に参加していました。ジョビンとは早くから公私にわたり友人だそうで、二人の共作は息がぴったりです。バックを務めるのはマイルス・デイヴィスとの共演で知られるベースのロン・カーターを始めとするアメリカ勢と、ドン・ウン・ロマンやクラウジオ・スローンの二人のドラマーを始めとするブラジル勢がうまく組み合わさっています。ボサノヴァ的に幸せな雰囲気です。

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🎦ANTONIO CARLOS JOBIM & Herbie Hancock - Wave. 1993 Tribute concert live in Sao Paolo. - YouTube

ジョビンは作曲家としてだけでなく、ここではギターとピアノ、そして1曲だけですがボーカルもとります。さらには、これも一曲だけですがハープシコードにも挑戦しています。そこはかとないギターとピアノの演奏はこれぞボサノヴァの真髄です。アルバムは「波」から始まる10曲が収録されています。いずれ劣らぬ名曲名演ばかりで、アメリカ人はこれを「繊細なジャズ」と捉えました。CTIからの発表ですし、ジャズの文脈に置くとすんなりと理解できたのでしょう。ジャズ・チャートでは5位を記録しています。このアルバムを初めて聴いたという人でも、収録曲のいくつかは必ず聴いたことがあると思います。テレビ番組のBGMとして何度も何度も繰り返し使われてきたはずです。気持が良くて少しお洒落な空間を演出するにはもってこいの音楽です。何とも味わい深い音楽です。収録曲「モハーヴェ」でのドラムはBPMが倍くらいありそうで、ジャングルを先取りしています。そのように繊細なのに弛まぬリズムが背骨となって、流れるようなストリングスを背景に、リード楽器がしっとりとうねる。極上の空間を作り出す音楽です。ブラジルの音楽事情はかくも豊かで華やかであるということを全世界に向けて発信した功績は大きいです。帝王の称号はだてではなく、見事にアメリカを、そして世界を制しました。基本、ロック耳の自分ですが、「ボサノヴァ」と言えばまずはこの作品です。間違いないです。

Wave / Antônio Carlos Jobim (1967 CTI)