montana_sf16’s diary

気まぐれではありますが「過去記事」を少しずつ掲載していきたいと思います。※アルバム紹介について。⇒ バンド名~アルバムタイトル~(掲載年月) ←この順番になっています。何かご覧になりたいもの等ございましたら受け付けますのでどうぞよろしくお願いいたします。🙇‍♂️

ウラジミール・ホロヴィッツ モスクワ・ライヴ1986 (2019―8)

f:id:montana_sf16:20221001155322j:image《ホロヴィッツ,モスクワ・ライヴ 1986》 - YouTube

🎦Horowitz in Moscow - State Tchaikovsky Conservatory 1986 - Remastered - YouTube

20世紀を代表するピアニスト、ウラジミール・ホロヴィッツが1986年4月20日モスクワ音楽院大ホールで開いた歴史的コンサートを収めたアルバムが本作です。同時に映像も発表されています。歴史的意義からすれば映像で楽しんだ方が良さそうですね。何が歴史的意義かというと、このコンサートはホロヴィッツが1925年に国を出て以来、実に60年ぶりに故国に足を踏み入れて開催したものであるということです。ホロヴィッツはこの年80歳を超えていますから、感激もひとしおだったことでしょう。ややこしいのは、ホロヴィッツの生まれはウクライナキエフないしはその隣の町だということです。モスクワはロシアではないかという話になるのですが、ホロヴィッツが生まれた時、ウクライナロシア帝国の一部でしたから、モスクワも同じ国です。さらに言えば、1986年はまだソビエト連邦が存在していましたから、このコンサートが行われた時もホロヴィッツにとってはモスクワは故国の首都でした。ちなみにホロヴィッツは1989年に亡くなっていますから、ウクライナの独立を見ないままでした。それにしても60年とは長い年月です。ホロヴィッツは「国にまだいる親せきに会いたいと思った」と言っています。その感慨やいかばかりでしょうか。それは本人ばかりではなく、モスクワの聴衆にとっても大変大きな出来事でした。そんな歴史的意義を頭に置きながら、この作品に向かうと、ソロ・ピアノということもあるのか、意外にも小品ばかりを選んでいることに驚かされます。しかし、それが良いんです。短い作品を連打することで、起承転結がくっきりし、観客の興奮も高まっていきます。

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選ばれた作品は、スカルラッティモーツァルトラフマニノフスクリャービンシューベルト、リスト、ショパンシューマン、モシュコフスキで全13曲となっています。ロマン派を中心に、古典や現代も含めた幅広い選曲と言えます。ホロヴィッツはこの年82歳です。この3年前に初来日した時には、音楽評論家の吉田秀和氏から「ひび割れた骨董」と評され、同じく音楽評論家の宇野功芳氏からも「まさに老醜そのものであった」と酷評されています。容赦ないですね。しかし、それから3年、ホロヴィッツはモスクワでのこの歴史的コンサートを大成功の裡に終えます。そして、リベンジに日本を訪れたホロヴィッツは見事にコンサートを成功させたのでした。さすがは大天才です。きっちりと押さえるべきところは押さえる。確かにこのライブは盛り上がります。歴史的経緯を知らなくても、観客の熱狂ぶりが尋常でないことはよく分かります。激しいタッチというわけではなく、むしろ繊細で美しいピアノの音色が観客を熱狂させる。歌うピアノないしは踊るピアノといったところでしょうか。個人的にはスクリャービンの練習曲2曲が好きです。あ、そそっ☝、ホロヴィッツは子どもの頃にスクリャービンと会ったことがあるそうです。60年ぶりの故郷にて、その頃のことを思い出しているのでしょうか、伸ばした指から迸るサウンドは素晴らしいです。

参照:「クラシックCDの名盤 演奏家篇」(文春新書)