montana_sf16’s diary

気まぐれではありますが「過去記事」を少しずつ掲載していきたいと思います。※アルバム紹介について。⇒ バンド名~アルバムタイトル~(掲載年月) ←この順番になっています。何かご覧になりたいもの等ございましたら受け付けますのでどうぞよろしくお願いいたします。🙇‍♂️

レディオヘッド キッドA (2016―10)

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 f:id:montana_sf16:20240415195637j:image💿️Radiohead - Kid A (Full Album) - YouTube

この作品には驚きました。なんたって全米1位を獲得したんです。1970年代、80年代に米国チャートと親しくお付き合いした身としては、全く理解しがたい現象でした。こういう音楽はむしろ米国人には理解できないということが勲章のようになっていたはずです。時代は変われば変わるものです。こんなアルバムが1位になるなんて。もっともチャートに長居はしておらず、同じレディオヘッドのアルバムでも前作の方が累計では売れているようですから、少しほっとしました。前作まではとにもかくにもギター・バンドとしての顔を保っていたレディオヘッドですが、この作品では電子音とエフェクト効果を効かした楽器音の断片が基本トーンとなっています。アンビエントっぽい。見かけのスタイルは大きく変わりました。「ロックなんか退屈だ」とリーダーのトム・ヨークは語ります。「ロック以降」を宣言したと山崎洋一郎氏がライナーに書いています。ただ、そういった一切合財がニュー・ウェーブからスミスに至るブリティッシュ・ロックの王道を宣言しているように思います。逆説を弄しているわけではありません。王道を行く人々の多くはロックを否定してみせますが、ともかくロックを語ってしまっている。見かけのスタイルはどうあれ、ロックがその奥に見え隠れしています。ある意味でとても真面目なロック・アルバムです。トム・ヨークは愛読書にベン・オクリの「満たされぬ道」を挙げています。~続⤵️

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f:id:montana_sf16:20240415201020j:image🎦KID A KID A KID A (RADIOHEAD) Kid A Live in Belfort, 2003. Radiohead. - YouTube

オクリはナイジェリア人、ロンドンでホームレスを経験しています。そんな彼の「満たされぬ道」ほどアフリカのジャングルの心臓に迫った作品はありません。自分はこの作品をひと夏かけて読みました。美しい文体に魅了され、読み終わるのが惜しかった。オクリの描く魔術的リアリズムは、ガルシア・マルケスなどの南米派とは全く異なる、とても濃密でねばねばした作品です。いかにも「キッドA」的な世界です。「僕は、このアルバムにはまるっきり感情的なところが無いと思うんだ」とトムは語っていますが、一方でアルバムには「夕暮れには切なすぎる涙を誘いだしているの?」と問いかける椎名林檎の言葉が封入されています。どちらも正解なんでしょう。スタンレーによるアルバムのアートワークは白を基調とした寒々としたもので、荒涼とした心象風景を写しているようにも見えますけども、濃密な空間の魔術的な世界のようにも思えます。エモーションが溶け合ってべとべとしています。アルバムの制作過程はリアルタイムでギターのエド・オブライエンがブログに書いています。まるでゴールの見えない毎日だったようで、最終的に完成した時にはファンはほっとしたのではないでしょうか。オウテカなどのエレクトロニカ系のサウンドに触発されてのこのサウンドですけれども、それでも、もうひとつのロックの極北にあるU2レディオヘッドには共通する匂いを感じます。21世紀のロックの可能性を感じるアルバムです。

Kid A / Radiohead (2000 Parlophone)